中皮腫・アスベスト疾患のご遺族への労災保険制度や石綿救済制度での補償や給付
公開日:2020年7月29日
目次
中皮腫・アスベスト疾患の労災請求から認定の流れ
中皮腫やアスベスト肺がんやアスベスト肺などのアスベスト疾病になられた家族の方がお亡くなられた場合、労災保険制度やアスベスト救済制度への請求・申請を検討しましょう。労災保険制度は国(厚生労働省)が管理・運営をしている公的制度で、石綿救済制度よりも給付内容に厚みがあります。請求から認定までの全体的な流れを確認しましょう。
遺族のアスベスト労災請求から認定までの流れ
①アスベスト対象疾病の「認定基準」や「判定基準」と請求権の確認。
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②労災制度・救済制度の給付内容の確認。
※基準に合致していないなどの理由で諦める必要はありません。
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③労災制度は労働基準監督署に請求、救済制度は環境再生保全機構に申請。
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④労災認定(不認定)・救済制度認定(不認定)の通知を受ける。
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⑤労災認定された場合は、「調査結果復命書」を取得して決定内容を確認する。また、会社や国に補償(賠償)請求を検討する。労災が不認定となった場合や認定でも決定内容(支給額)に不服がある場合は「審査請求」を検討する。救済制度で不認定となった場合は公害健康被害補償不服審査会への審査請求を検討する。
中皮腫・アスベスト労災疾病と認定基準
労災保険制度では対象疾病を定め、認定基準を設けています。
中皮腫 |
次のいずれかに該当 ①第1型以上の石綿肺所見がある ②石綿ばく露作業従事期間が1年以上ある |
肺がん |
「原発性肺がん」であり、次のいずれかに該当 ①第1型以上の石綿肺所見がある ②胸膜プラーク所見がある+石綿ばく露作業従事期間が10年以上ある ③広範囲の胸膜プラーク所見がある+石綿ばく露作業従事期間が1年以上ある ※「広範囲の胸膜プラーク」とは、⑴胸部胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな 陰影が認められ、かつ、胸部CT画像によりその陰影が胸膜プラークとして確認される場合、⑵胸部CT画像で、胸膜プラークの広がりが胸壁内側の1/4以上ある場合、のいずれかを指す ④石綿小体または石綿繊維の所見がある+石綿ばく露作業従事期間が1年以上ある ⑤びまん性胸肥厚の所見がある ⑥「石綿紡織製品製造作業」、「石綿セメント製品製造作業」、「石綿吹付作業」で石綿ばく露作業従事期間が1年以上ある |
石綿肺 |
次のいずれかに該当 ①管理4の石綿肺所見がある ②管理2以上の石綿肺で次のような合併症に罹患している 「肺結核」、「結核性胸膜炎」、「続発性気管支炎」、「続発性気管支拡張症」、「続発性気胸」 |
びまん性胸膜肥厚 |
次のすべてに該当 ①石綿ばく露作業3年以上 ②著しい呼吸機能障害(パーセント肺活量(%VC)が60%未満など) ③胸部CT画像上に一定以上の肥厚の広がりがある |
良性石綿胸水 |
厚生労働省本省での個別協議 |
アスベスト労災における「石綿ばく露」
中皮腫をはじめとするアスベスト疾患は、アスベスト(石綿)を吸入してしまうことと関係しています。吸入してしまうことを、「ばく露」と言います。石綿ばく露作業には次のようなものがあります。
- 石綿製品製造業(石綿高圧管、石綿板、石綿パッキング・ジョイントシート、摩擦材、プラスチック材)
- 建設・解体作業
- 石綿吹付け
- 断熱作業
- 機械据付・板金作業
- メンテナンス作業
- 船舶製造・修理作業
- 鉄道車両製造・修理業
- 溶接作業
- メッキ業
- 重機器操作業
- 電機技師
- 輸送・倉庫管理・清掃業
- 非直接ばく露(石綿関連作業周辺での一般業務、石綿吹付け下の一般業務)
中皮腫・アスベスト救済制度と判定基準
アスベスト救済制度では、次の疾病を「指定疾病」と定めています。
中皮腫 |
中皮腫の診断に誤りがないこと。 ※臨床経過およびエックス線検査、CT検査、病理組織診断によって、中皮腫の確定診断がされていることが重要となります。病理組織診断がされていない場合は、確定的に中皮腫と判定できませんが、細胞診断が実施されている場合、その他の所見と総合して中皮腫と判定されます。なお、平成18年3月27日以前の死亡者については死亡診断書や診療録で「中皮腫」と判断できれば構わない |
肺がん |
「原発性肺がん」であり、次のいずれかに該当 ①胸膜プラーク所見がある+胸部エックス線検査でじん肺法に定める第1型以上と同様の肺線維化所見があり、胸部CT検査においても肺線維化所見が認められる ②広範囲の胸膜プラーク所見がある ※「広範囲の胸膜プラーク」とは、⑴胸部胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな 陰影が認められ、かつ、胸部CT画像によりその陰影が胸膜プラークとして確認される場合、⑵胸部CT画像で、胸膜プラークの広がりが胸壁内側の1/4以上ある場合、のいずれかを指す ③石綿小体または石綿繊維の所見がある ※以下のいずれかの基準を満たす必要あり ・乾燥肺重量1g当たり5,000本以上の石綿小体 ・乾燥肺重量1g当たり200万本以上の石綿繊維(5μm超) ・乾燥肺重量1g当たり500万本以上の石綿繊維(1μm超) ・気管支肺胞洗浄液1ml中5本以上の石綿小体 ・肺組織切片中の石綿小体 |
石綿肺 |
「著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺」であると診断されること。具体的には、以下の全ての要件を満たすこと。ただし、2010年7月1日より以前に死亡した方については、死亡診断書などで判断する。 1. 大量の石綿ばく露があること 2. 胸部単純エックス線画像で、じん肺法に定める第1型以上と同様の肺線維化所見があること 3. 著しい呼吸機能障害があること 4. 他疾患との鑑別ができること |
びまん性胸膜肥厚 |
「著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚」であると診断されること。具体的には、以下の全ての要件を満たすこと。ただし、2010年7月1日より以前に死亡した方については、死亡診断書などで判断する。 1. 大量の石綿ばく露(石綿ばく露作業への従事期間が概ね3年以上)がある 2. 臓側胸膜に一定以上肥厚の広がりがあること 胸部単純エックス線画像上に、 片側のみ肥厚がある場合 → 頭尾方向に側胸壁の1/2 以上 両側に肥厚がある場合 → 頭尾方向に側胸壁の1/4 以上 胸膜プラーク等との鑑別のため、胸部CT 画像所見も併せて評価されていることが必要 ただし、胸水貯留のため胸部単純エックス線画像上に胸膜のみの肥厚を評価できない場合は、胸部CT画像上から、以下の(a)~(c)全てが確認できることにより、被包化胸水の所見が確認できるものとし、2. を満たすと判断 (a) 胸水の不均一性 (b) 胸水貯留部のCrow'sfeetsign又は円形無気肺 (c) 胸水中のエアー又は胸郭容量の低下 (c)については、「胸郭容量の低下」のみ認められる場合にあっては、概ね3か月以上の間隔で撮影された2つの胸部C T 画像から胸水の量が増加していないと判断できる必要がある 3. 著しい呼吸機能障害があること 4. 他疾患との鑑別ができること |
著しい呼吸機能障害の判定基準
呼吸機能検査の結果、以下の(ア)から(ウ)のいずれかの場合に、著しい呼吸機能障害があると判定する。(肺活量の正常予測値は、2001年に日本呼吸器学会が提案したものを使用)
(ア) パーセント肺活量(%VC)が60%未満であること
(イ) パーセント肺活量(%VC)が60%以上80%未満であって、1秒率が70%未満であり、かつ、%1秒量 が50%未満であること
(ウ) パーセント肺活量(%VC)が60%以上80%未満であって、動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下であること、又は、肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)の著しい開大が見られること
出典:独立行政法人 環境再生保全機構 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の場合
アスベスト疾患のご遺族で労災や救済制度に請求・申請の権利
ご遺族で請求・申請できる方は基本的に次のような方です。
労災(遺族年金・一時金および葬祭料)の場合
被災者の死亡の翌日から5年以内で、被災者が「労働者」としてアスベストにばく露して、アスベスト関連疾患で死亡した方の遺族。被災者が自営業者や一人親方でも、「労災特別加入」している場合、被災者の修行時代など「労働者」としての時代にアスベストばく露をした方は請求できます。詳しくは、労働者性の判断などを確認してください。
ただし、被災者が生存中に支給される可能性があった給付(休業補償など)は、その事由が発生した翌日から2年で時効となります。給付葬祭料は、被災者の死亡の翌日から2年で時効となります。
条件によって、「妻」ないしは「夫」であったり、子・父母・孫など、被災者との生計維持関係や障害の有無によって受給権者としての順位が決められています。遺族年金か遺族一時金が請求できます。
遺族年金受給資格者
被災し、死亡した労働者の死亡当時の収入によって生計を維持していた遺族が対象となります。受給権者の順位は次のとおりです。
①妻ないしは60歳以上か一定障害のある夫
②18歳に達した以降の3月31日まで、ないしは一定障害のある子
③60歳以上ないしは一定障害のある父母
④18歳に達した以降の3月31日まで、ないしは一定障害のある孫
⑤60歳以上ないしは一定障害のある祖父母
⑥18歳に達した以降の3月31日まで、ないしは60歳以上、あるいは一定障害のある兄弟姉妹
⑦55歳以上60歳未満にある夫
⑧55歳以上60歳未満にある父母
⑨55歳以上60歳未満にある祖父母
⑩55歳以上60歳未満にある兄弟姉妹
「一定の障害」とは、障害等級における第5級以上の身体障害を指します。
遺族一時金受給資格者
労災遺族年金を受給する遺族がいない場合か、遺族年金のすべての受給権者の権利が無くなった際にそれら遺族に支払われた年金額等の合計が給付基礎日額の1000日分に満たない場合に、次の順位に従って支給されます。同順位の者が複数の場合はそれぞれが受給権者となります。
①配偶者
②被災労働者が死亡した当時の収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
③ ②に掲げる以外の子・父母・孫・祖父母
④兄弟姉妹
葬祭料の支給対象者
葬祭料の支給対象は基本的に「葬儀を行うにふさわしい遺族」であり、場合によっては遺族に限定されません。実際に葬儀を執り行なった方に支給されます。仮に、葬儀を執り行う遺族がおらずに、社葬した場合は、それをおこなった会社に支給されます。
労災(遺族年金・一時金)時効の場合
労災制度において遺族年金ないしは遺族一時金の請求権が時効によって消滅してしまった場合は、石綿救済法にもとづく「時効救済制度」によって「特別遺族給付金(年金ないし一時金)」の請求が可能です。受給資格者の順位は、労災遺族年金および一時金の対象者に準じます。
救済制度(特別遺族弔慰金・特別葬祭料)の場合
中皮腫や肺がんなど、指定疾病に罹患して亡くなられた方のご遺族が申請できます。請求権の順位は次のとおりです。
① 配偶者(事実婚を含む)
② 子
③ 父母
④ 孫
⑤ 祖父母
⑥ 兄弟姉妹
中皮腫・アスベスト労災と救済制度の給付(補償)の内容
アスベスト救済制度、労災制度、労災時効救済制度で主な給付の内容等が異なります。請求期限等もありますので、漏れがないようにご確認ください。なお、労災制度絵では、記載のもの以外に「労災就学等援護費」が支給される場合もあります。
アスベスト労災認定後に補償・賠償等を検討する場合
労災認定等がされた上で、雇用されていた会社や国に賠償を求める方々もおられます。テレビCM等で、中皮腫等の疾患になった方々には容易に国から給付等がされるのではないかと誤解を生むような広告も出されています。しかし、アスベストに関わる補償・賠償の問題は論点が多岐にわたりますので、申し出れば国から給付がされるというような安易な制度にはなっていません。ご関心のある方は、中皮腫・アスベスト(石綿)疾患の裁判などによる賠償金(給付金)をご確認ください。
参考
・厚生労働省 遺族(補償)給付 葬祭料(葬祭給付)の請求手続
・森永謙二(2006)『アスベスト汚染と健康被害[第2版]』日本評論社