中皮腫の手術は大きく分けて、2つの術式があります。
目次
①胸膜肺全摘術(EPP)
肺、胸膜や場合によっては横隔膜や心膜ごと切除し、人口の膜で横隔膜や心膜を再建する術式です。術後の放射線治療の実施が可能です。
出典:「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブックより
②胸膜切除/肺剥皮術(P/D)
壁側胸膜および臓側胸膜を切除し、横隔膜や心膜の肺を温存する術式です。全身状態や心肺機能が低下している方にも実施できますが、肺への影響を考慮して術後の放射線治療はできません(国外での報告例はありますが、慎重な意見が強くあります)。
EPPとP /Dの差異
両術式は2008年に生存率に差が無かったとの論文が発表されていますが、手術自体を行っている医療機関が少ないために、主治医、がん相談支援センター、患者会などに相談したうえで治療実績がある医療機関にセカンドオピニオンを行うことも今後の治療方針を決めるための重要な手段の一つです。
山口宇部医療センターでの悪性胸膜中皮腫に対する最新(2019年2月)の治療成績では、上皮型悪性胸膜中皮腫に対する胸膜外肺全摘術(EPP)を含む集学的治療において治療開始後5年生存率が43%、生存期間中央値が59カ月という報告も出されています。
ただし、いずれの術式も「完全切除」や「治癒切除」と言われる、切断面を顕微鏡で確認しても腫瘍が取りきれたと言える状態にすることは不可能で、目的は「肉眼的完全切除」にあります。手術単独での治療は推奨されておらず、集学的治療(外科療法・化学療法・放射線療法・免疫療法等の組み合わせによる高い治療効果を目指す治療法)の一部として位置付けられています。腫瘍の減量効果については、胸膜外肺全摘術(EPP)が高いとされています。
別途、症状緩和を目的に「胸膜癒着術」がなされる場合もあり、「ガイドライン」では「胸水制御と胸水貯留による症状の軽減を目的とした緩和療法として、薬剤による胸膜癒着術を行うよう提案する」とされています。癒着術では、ドレーンにより胸水を排出したのち、胸水によって圧迫されていた肺が膨らんだのち、肺と胸膜のあいだに薬(癒着剤)を投入して癒着させる方法です。
手術された患者さんの実際の状態が知りたいという方もおられます。胸膜肺全摘術の患者さんへのインタビューなども参考にしてください。
手術適応:推奨
臨床病期Ⅰ-Ⅲ期の選択された一部の患者に対して手術を行うことを考慮してもよい。(グレードC1)
手術適応判定は呼吸器外科医を含む集学的治療チームにより判定することが勧められる。(グレードA)
a.手術の利益:切除可能中皮腫において外科的切除が生存率を改善するか否かは明らかでない。
b.手術の目的:手術の目的は肉眼的完全切除である。
c.集学的治療:集学的治療により許容し得る周術期リスクと遠隔予後が得られる可能性がある。
腹膜中皮腫の手術
腹膜中皮腫では、手術による治療効果は限定的とされる意見がある一方で、手術実績を公表している医療機関もあります。また、「講演動画『腹膜中皮腫闘病15年 南の島・沖縄から 絶望から希望へ』(鹿川真弓さん)」、「腹膜中皮腫の治療記録:望みと光明」、「腹膜中皮腫の治療体験:絶望と希望の狭間で余命2年の宣告を生きる」などの体験記も参考にしてください。
欧米の報告において、上皮型や播種病変が限局しているケースにおいて、腫瘍減量手術・腹腔内化学療法・温熱化学療法の併用治療で効果が高いとするものもありますが、化学療法単独治療との比較での優位性についてはわかっていません。また、複雑な治療法であるために多くの病院で治療ができるわけではない点も考慮する必要があります。
心膜中皮腫の手術
心膜中皮腫では、腫瘍が心膜の一部に限局されている場合でも、手術は極めて困難とされています。また、完全切除の報告事例もほとんどありません。中には、限局性病変での完全切除症例における長期生存報告もありますが、限局性と考えられた症例の切除後に断端陽性で化学療法も効果が無かった症例もみられ、手術適応については慎重な検討が求められます。
心タンポナーデの状態では、心臓の負担軽減を意図して心囊液を体外へ排出するためにドレーンを使用したり、心膜癒着術・心膜胸腔開窓術が実施されることもあります。
精巣鞘膜中皮腫の手術
精巣鞘膜中皮腫では、腫瘍の完全切除が可能と判断できれば手術が検討されます。具体的には、腫瘍が限局している場合には「高位精巣摘除術」での完全切除を目指します。術後、腫瘍が残存している可能性がある場合は補助療法が必要で、化学療法よりも補助放射線療法が有効と結論づけている報告も見られます。
【参考文献】
>国立がん研究センター がん情報サービス 診断と治療:治療にあたって
>日本肺癌学会 悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン -外科治療-
>石綿・中皮腫研究会ほか編(2018)『中皮腫瘍取扱い規約』金原出版
>「胸膜中皮腫に対する新規治療法の臨床研究に関する研究」班:患者さんとご家族のための胸膜中皮腫ハンドブック
>国立がん研究センター希少がんセンター 悪性心膜中皮腫(あくせいしんまくちゅうひしゅ)
>国立がん研究センター希少がんセンター 悪性精巣鞘膜中皮腫(あくせいせいそうしょうまくちゅうひしゅ)