中皮腫のアスベスト労災で休業補償給付が支給されない可能性がある場合の対処法

更新日 : 2020年4月11日

公開日:2019年3月4日

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中皮腫発症は造船所内での事務職でアスベストばく露

80代の半ばで中皮腫と診断されたAさんは、いくつかの造船所内に事業所を構えていた会社の経理事務として約40年間勤務されていました。業務では、「工事見積や契約等の現場事務もあわせておこない、マスクをしないで毎日の様に機関室やボイラー室、船底の作業現場に立ち入っていた」、「船内(作業現場)には、機関室、エンジンルームやボイラー室など高熱な機器があるため、壁には石綿が吹き付けられていて、ボイラー室の配管や高圧パイプの周囲には石綿が巻き付けられていた。出張してきた時は、石綿が使われている船内に立入ったり、作業着に石綿が付着していたと思われる作業員と狭隘な事務所スペースで経理事務に従事していたので、石綿にばく露する可能性はあった」と主張されていました。

中皮腫だが労災での休業には当たらない!?

ご相談を受けた当初から、石綿ばく露との関係では労災認定にまでには大きな問題はないと考えました。ところが労災請求にあたって、ご家族が主治医に様式第8号の記入をお願いしたところ、「療養のため労働することができなかったと認められる期間」を記入して頂く必要があるのですが、主治医は「就労できなかった期間とは認められなかった」との理由で空欄のまま記入されませんでした。

休業補償給付は、労災補償給付の骨格的な給付です。人によって異なりますが、休業補償給付が支給されると一月あたりでは十数万円から三十数万円ほどの幅で給付がされます(支給額は人によって異なります。事例などはこちらをご覧ください)。労災認定されても、休業補償が支給されないと医療費などの支給に限定され、本人やご家族の生活維持はもちろん、治療を含めた生活設計の判断に大きな支障を来たします。

中皮腫の療養経過を石綿労災関連資料として提出

医師の判断はご本人はもちろんですが、ご家族からしても医師の判断は実状とは乖離したものでした。そこで、Aさんの娘さんが下のような意見書と療養経過をまとめ、労働基準監督署へ追加で提出をしました。

Aさんの娘さんがまとめた意見書
ご家族がまとめたAさんの状態

中皮腫として労災での休業の必要性があったと判断

結果的に労災認定にあたって、休業補償給付が支給されることになりましたが、労働基準監督署は「意見書から、初診時より階段の昇降が困難な状況で、日常生活に相当支障をきたしていることが推認され、(中略)転医前、転医後の医療機関も全期間休業が必要であると証明していることから、請求期間について、療養のため労働することができなかったと認め、所定の給付を行うことといたしたい」と判断しました。ただ、下の表のとおり、証明を記入してくれなかった医療機関を受診していた期間の療養日数が218日間と大部分で、「転医前、転医後の医療機関も全期間休業が必要であると証明している」というの判断理由はあくまで補足的なものであり、ご家族が提出した意見書が主要な判断要素となったと推測されます。

労災請求から決定までに2年近くかかってしまい、残念ながらAさんは調査の過程でご他界されてしまいました。決定までに時間を要した理由の一つとして、細胞診の検査はしていましたが、ご年齢の関係で生検ができなかったことで本省協議と確定診断委員会の検討に半年以上の時間を要してしまったことがありました。

Aさんの休業補償請求は、無事に支給となりましたが、労災認定者の方で休業補償が不支給にされてしまう方がおられます。そのあたりの問題も改めて触れていきたいと思います。