肺がんで石綿(アスベスト)労災補償で給付額変更:北海道・札幌の事例
以前、労災受給をしている中皮腫のご遺族に労災年金の追加給付がされた事例を紹介しました。今回は、労災認定されてアスベスト肺がんで療養中の方の給付金額が変更されたお話です。「もう労災認定されたから、労災認定事例の紹介なんか自分には関係ない」と思っている方にこそ読んでほしい内容です。
目次
石綿肺がんで労災認定:原因は建設業での石綿ばく露
肺がんで療養中のAさんが最初に相談に来られたとき、平均賃金(給付基礎日額)が3,192円と書かれた労働基準監督署からの通知を持って来られました。「いくら何でも低すぎるだろう!」と思いました。こういう方がいると、理由が何であろうと不服を申し立てるべきだ、との思考が私は先行します。
冷静になって話を聞くと、どうやら本人がアスベストばく露があったと一言も主張していない会社での就労において、勤務していた場所及び部屋に「吹付石綿」が使用されていたとの理由で、本人の意に沿わない形で事実認定がされました。結果、定年退職後にこずかい稼ぎ程度に月給10万円ほどしかもらっていない会社を「最終ばく露事業所」と認定されてしまったのです。
給付額の変更を求めて申し立て
平均賃金が決定されてからすでに3ヶ月経過していました。何らかの処分に対しては、3ヶ月以内に都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に不服を申し立て(審査請求)ができますが、その期限が切れていました。療養中の方で、「そんなのとっくに過ぎてしまった」と思っている方!別のやり方があります。
Aさんは、休業補償請求を定期的に請求されていましたので、その請求の処分に対して不服申し立てをすることにしました。休業補償は、平均賃金(給付基礎日額)によって給付額が変わるので、総体としての給付に不服を申し立てる形を取りました。
申し立ては無事、審査官に受理され、労働基準監督署の調査がいかにずさんであったかを主張するための準備に取り掛かりました。申し立て手続きから数ヶ月して、札幌中央労働基準監督署から「Aさんの件ですが、改めて再調査した結果、過去の調査と判断に誤りがありました。給付基礎日額を16,140円に変更します。つきましては、審査請求を取り下げてほしい」と連絡がありました。
年金暮らしのAさん。公正に平均賃金の算定がされ、将来の生活設計にゆとりができて安堵されていました。
労災調査段階での「瑕疵」と認定以降での「新たな事実」
労働基準監督署の方や審査官の方でも誤解されている方がいますが、審査請求している段階では原処分をした労働基準監督署は「新たな事実」を確認しても、あるいは「瑕疵」を指摘されても、再調査はしないもの・できないものと誤認しているのではないかと思う時があります。決して、そんなことはありません。事実、このAさんの後にも、札幌中央労働基準監督署は申し立て中の事案について再調査したものがあります。あるいは、労働基準監督署が労災を不認定にしたあとに再調査をして認定された事例もあります(後掲記事を参照ください)。
申し立てをしたら労災給付が止められるのではないか、などの誤解をされる方もおられます(そのようなことはありませんのでご安心を)。たしかに、一度行政が決定したものですので、不服を申し立てることに引け目を感じたり、「行政がすることなんだから間違いはないはず」と考える方もいます。私も、仕事以外の日常的な生活に関わることで、「役所のやることなんだから、間違っていることなんてそんな滅多にないよね?」という感覚をどこか自然に持ち合わせています。
ただ、経験上言えることは、この平均賃金(給付基礎日額)の決定について判断の内容に疑わしさがある方はそこそこおられます。まずは話を聞かせて頂いて、何かできないかと話を聞いていただけると最善かつ最大のご支援ができます。どんどんお問い合わせください。日本全国どこへでも行きます!
参考記事:無署名記事(2017年8月23日)「鹿児島の男性、石綿労災、再調査で支給へ 大阪中央労基署」産経新聞