アスベスト(石綿)肺がんの認識に対する医療関係者および患者・家族の実態調査

ワンステップ 長谷川一男

栗田英司さんや、右田孝雄さんに初めて会ったのはいつだろう・・・?

思い返してみると2018年の日本肺癌学会学術集会の後の懇親会だった気がする。学術集会は東京の京王プラザで行われ、懇親会は、初日の夜、新宿西口のごった返す街中の居酒屋を貸し切り、40人強、ぎゅうぎゅう詰めで行われた。全国の患者が集まる機会はめったにない。お互いの近況や治療のことなど大いに盛り上がった。その懇親会が終わり、ホテルに戻ろうとするとき、栗田さんから私は話しかけられた。

「肺がんの中にアスベスト由来の人が埋もれている。なんとかしたいんです。仲間を救いたい。」

私の名前は長谷川一男。48歳。肺がん患者の会ワンステップ、また日本に13ある肺がん患者会の横のつながりの組織、日本肺がん患者連絡会の代表をしている。自身も患者であり、ステージは4。2010年に罹患して以来、ずっと闘病を続けてきた。そんな私にとって、栗田さんのお話は寝耳に水のこと。救われるはずのものが救われていない現状があるとは驚きだった。

具体的に言うと、下の図を見ていただきたい。栗田さんからもらった資料をまとめてみた。

救われるべき人が救われていない。そんな現実が目の前に現れた。栗田さんや右田さんたちと、課題を共有し、この現状を何とかできないか、動き出すこととなった。

栗田さんや右田さんからは、呼吸器の先生方へのアンケートを取ることを提案された。同時に、患者に対しても意識調査を行い、アスベストをどう認識しているかを調べる。異論なし。賛成。先生方へのアンケートは日本肺癌学会に依頼し、患者へは我々が行った。

その結果は2019年の12月、大阪で行われた第60回日本肺癌学会学術集会で、ポスター発表することになった。後掲のポスターで、それである。

結論を先に言うが、先生方だけの努力ではなく、多職種での連携が必要なこと。患者は肺がんの原因にアスベストがあることを理解し、自分自身を疑うことが大切だとわかった。では、ポスター発表の内容を見ていただきたい。

発表当日に右田孝雄さん(左)と筆者(右)で発表

この調査中、15万円の助成金がヨーロッパ製薬団体連合会から降りることが決定。それを使い、上記のポスター結果をパンフレットにして、配布することができることになった。一歩進んだ。

そして、次へ行け、とばかりにある情報が目の前に飛び込んできた。

9月・スペインで行われた世界肺癌学会。偶然通りがかった廊下のすみに、アスベスト啓発のポスターがあった。

「卵巣がん」と書いてある・・・

卵巣がんとアスベスト?どういうことなんだろう?隣にいた腫瘍内科医に尋ねてみると、「アスベストは突き抜けていくもの。肺から腹膜へ、そして腹膜に接した卵巣へ。だからじゃないかな・・・」との答え。

そうなのか・・・心がざわついてくる。

アスベスト由来の肺がん患者は登録もされていないし、救済もされていない。同じことが、卵巣がんでも起こっているということだ。

帰国してすぐさまがん登録の研究者のもとへ行く。中皮腫患者の多い地域に、もし卵巣がん患者も多かったとしたら・・・・それはそこにアスベスト由来の卵巣がん患者が隠れていることにならないだろうか、そう尋ねてみた。答えは、「何か出てくるかもしれない。興味深いね」とのことだった。

ゆっくりと一歩ずつ、進んでいると思う。

病気になって以来、どう生きるかはよくわかっていないし、言葉にできない。でも救われていない患者がいるのなら、それは救われる世の中になってほしいと思う。誰かが置き去りになる社会は気に入らない。栗田さんは肺癌学会のポスター発表を見ることなく亡くなった。もし今いれば、同じことを思うだろう。それは確信する。

栗田英司さん(右)

※アンケート、ポスター発表は右田さん、鈴木さん、澤田さん、片岡さん、福神さん、柳澤さん、川上さん、瀬戸先生、田中先生、日本肺がん患者連絡会、日本肺癌学会の方々のご尽力で、出来上がりました。ここに感謝をお伝えしたいと思います。ありがとうございました。