全国建設アスベスト(石綿)訴訟で最高裁が建材メーカーの賠償責任を初めて確定
公開日:2021年2月1日
1月28日付の決定で最高裁は、建設現場で働いた労働者らが中皮腫や肺がんを発症し、国と建材メーカーの責任を求めていた裁判で初めてメーカーの責任を確定させました。
国と建材メーカーのアスベスト被害について責任を求める裁判は、全国の9つの裁判所において1000人以上が起こしており、今回の最高裁の決定は、京都地裁に提訴されて大阪高裁、最高裁へと審理が進められていた裁判に関するものです。
今回の最高裁の決定は、同時に国の責任についても確定させたもので、原告24人に対して国とメーカーの約2億8500万円の賠償が確定しました。
目次
最高裁にアスベスト被害の責任が認定された建材メーカー
今回の最高裁の決定で責任が確定した建材メーカーは、ニチアス 、エーアンドエーマテリアル、ノザワ 、バルカー、太平洋セメント、日鉄ケミカル&マテリアル、エム・エム・ケイ、大建工業の8社になります。
これらの会社は石綿含有吹付材やボード等の建材を製造・販売していましたが、古くからその危険性を認識していながら、企業としての適切な対策を尽くさずに危険性を認識したまま対策をしてきませんでした。
最高裁が認定した建材メーカーの責任
本件訴訟に関しては、2018年8月31日に大阪高裁が建材メーカーの責任を認定し、その決定に対して上告を申し立てていた建材メーカーの訴えを受理しない(不受理)ことで確定したものです。
大阪高裁の判決では、
・吹付工については、1972年10月1日から、
・屋内作業者については、1974年1月1日から、
・屋外作業者との関係では2002年1月1日から、
アスベストが含有していることや危険性について「警告表示」をせず、石綿含有建材を販売してきたことの責任を認定していました。
しかしながら、今回の最高裁決定で確定したのは吹付工と屋内作業者のみで、屋外作業者については国の責任も含めて今後、最高裁での弁論を経て、判決が出される見通しです。
一人親方の国の責任も確定
今回の最高裁の決定は、2020年12月に決定が出された東京1陣に続き、一人親方も含めて屋内作業従事者に対する国の責任も確定したものとなりました。
本件の大阪高裁判決では、吹付作業者については、1974年1月1日からの国の責任が認められており、その判断が確定したことになります。
全体像が見えていない建設アスベスト訴訟【実績と経験がものを言う】
今回のように、メーカーの責任が確定したとする報道が出ると、あたかもアスベスト被害を受けた本人や家族であれば誰でも国や建材メーカーから賠償を受けられるような印象を受けるかもしれません。
実際はそれほど単純な話ではありません。
建材メーカーの責任は、被災者ごとに従事していた作業内容や年数、現場の種類などによって立証方法が複雑で、関係弁護団も10年以上にわたって責任の立証のための理論を積み上げてきました。情報の蓄積と責任立証のための論理の質が担保され、ここまで登ってきたわけです。
巷に、ほとんど実績のない法律事務所がアスベスト訴訟について依頼を受けようと広告などを出していますが、何を目的としているかは一目瞭然です。
ご関心のある方は、「大阪アスベスト弁護団」など、建設アスベスト訴訟にも取り組み、最高裁での勝訴判決などの実績のある弁護団に相談することが望ましいと言えます。
【参考資料】
・大阪アスベスト弁護団 【建設アスベスト訴訟】京都1陣訴訟の最高裁決定、建材メーカーの連帯責任が初めて確定!
・京都新聞 建設アスベスト被害、京都訴訟が最高裁で確定へ 建材メーカーへの賠償命令は初
・時事通信 建設石綿、国とメーカーの責任確定 京都訴訟の上告退ける―最高裁
この記事の執筆者
事務局 澤田慎一郎
大学在学中からアスベスト被災者・家族と交流。千葉大学人文社会科学研究科(博士前期課程、公共哲学専攻)修士課程終了。大学卒業後、労働組合においてアスベスト被害を含む労災支援活動に従事。現在、全国労働安全衛生センター事務局次長、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会全国事務局。元劇団員俳優の労災認定やアスベスト肺がん逆転認定、ゴム手袋タルク石綿労災、バス運転手中皮腫労災の支援など弁護士等の専門家から注目される実績多数。