劇団俳優・演劇関係者のアスベスト労災(肺がん・中皮腫)

公開日:2020年12月16日

2018年に、日本初となる劇団俳優のアスベスト労災認定が明らかとなりました。労働者性の認定も含め、アスベスト被害を受ける職種としては珍しい事例でした。

今年になり、劇団に所属していた2名(所属劇団は別)に関して労災認定されました。まだまだ続くと言われているアスベスト被害において、あまり注目をされてこなかった劇団関係者の被害が立て続けに明らかになったことはアスベスト被害の多面性を表すものであるとともに、問題意識が希薄と思われる劇団関係者などに対して、注意を促すものになると思われます。

目次 [表示]

<被災者Aさん(アスベスト肺がん)の概要>

傷病名:肺腺癌

傷病発生日:2016年2月20日(当時74歳)

労災請求日:2020年1月27日(渋谷労働基準監督署)

労災認定日:2020年7月9日

被災者居住地:東京都内

アスベスト肺がんAさんの石綿ばく露歴

1960年4月から2018年3月まで東京都内の劇団に「俳優」として所属しました。このうち、入団時の1960年4月頃から昭和50年頃まで、全国の小中学校の体育館等で、年間120日から180日の舞台公演を行っていました。舞台設営のため体育館の天井で照明器具の取り付け作業などをおこない、天井に吹き付けられていた石綿の粉じんにばく露しました。

アスベスト肺がんAさんの被災者の働者性

一般に、劇団に所属する方には俳優・スタッフとしてフリーランスとして活動することも珍しくありませんが、被災者については、入団当時から月給制による賃金の支払いがされており労働者性があったものと推認されました。

アスベスト肺がんAさんの労災認定の判断理由

上記の石綿ばく露歴に加えて、東京労働局労災医員によって「石綿肺」および「胸膜プラーク」の所見が確認されました。労災認定基準で定めている石綿肺がんの基準のうち、「原発性肺がん+石綿肺所見」および「原発性肺がん+胸膜プラーク所見+石綿ばく露作業期間10年以上」をそれぞれ満たしていたことで認定となりました。 

なお、石綿に関する健康管理等専門家会議が作成した「石綿ばく露歴把握のための手引き」には、「学校などの講堂・体育館にはかつて相当数の吹き付け石綿がありました。ボールをぶつけるなどで石綿が飛散する可能性があり、施設管理者等が長期にわたりばく露した可能性があります」と、学校の体育館に吹き付け石綿が多用されていたことが認められています。

<被災者Bさん(中皮腫)の概要>

傷病名:悪性胸膜中皮腫

傷病発生日:2020年1月15日(当時54歳)

労災請求日:2020年5月26日(品川労働基準監督署。なお、決定は池袋労働)

労災認定日:2020年11月26日

被災者居住地:東京都内

中皮腫Bさんの石綿ばく露歴

被災者については、1990年4月から2008年3月頃まで東京都内の劇団に「俳優」として所属しました。入団時から俳優として、日本各地の学校、会館・センター・ホールなどの公共施設を公演でまわりました。若い頃は設営の関係で準備などもしていました。照明器具以外の小道具(例えば、「雪」などの紙を舞台上に撒く仕掛け)を設置する際に天井にのぼりましたが、その際に石綿が吹き付けられた鉄骨などに触れることがありました。照明機材は専門の業者が「バトン」という道具を使用して設置していましたが、設置する際に天井に吹き付けられたホコリが舞台上に落ちてきていた。公演前には欠かさず、そのような作業で舞台上に落ちたホコリを掃き掃除をしました。

中皮腫Bさんの働者性

入団当時から、劇団から公演毎に手当が支払われていました。また、⑴公演のキャスティング決定は希望を募った上で配役が決められ、配役の決定後に個人の都合で代役を立てるようなことはなく、することもできませんでした。⑵公演にあたっては、劇団内の演出家・舞台監督を務める劇団員の指示に従っていました。⑶公演の時間やタイムスケジュール等も自己の判断で時間設定などは決めることもできませんでした。これらを総合的に判断し労働者性があったものと推認されました。

中皮腫Bさんの労災認定の判断理由

 上記の石綿ばく露歴を踏まえ、労災認定基準で定めている中皮腫の基準のうち、「石綿ばく露作業従事期間1年以上」を満たしたことで認定となった。

劇団俳優・演劇関係者のアスベスト労災認定の意義

①相次ぐ職種を問わない劇団関係者の労災認定

2018年、劇団俳優として初めての石綿労災認定事例が明らかとなりました。今回の2つの労災認定事例はそれに続いて2,3例目になると考えられます。アスベスト健康被害において、舞台芸術関係者の被害はほとんど知られていません。劇団俳優以外にも、「映画放送舞台に関わる作業」として5件ほどの労災認定実績があります。

被災者Aさんについては、「石綿肺」の所見が確認されている。石綿肺は、石綿労災認定基準を定めた報告書(「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書(平成18年2月7日))でも、「石綿を大量に吸入することによって発生する職業性の疾患」であるとされています。すなわち、被災者Aも含め、このような舞台設営にかかる石綿ばく露の危険性が軽視できないことを示しています。

一方で、被災者Bさんが発症した「中皮腫」は、石綿ばく露と発症に関して「しきい値」がないとされています。石綿ばく露量にかかわらず、舞台芸術関係者に被害が生じる危険性を示すものです。

②劇団関係者の「労働者性」

これまで、劇団や芸能関係者の労災全般について、労災保険の対象となる「労働者」と認められずに労災認定されないケースがあり、問題となっています。本件では、実質的に使用従属関係にあった(労働者性があった)ことが認められました。

③体育館等の学校関係施設におけるアスベストの危険性

AさんもBさんも、学校の体育館での舞台設営に関わる石綿ばく露が中心でした。学校のアスベスト問題については、1988年に大きな問題となり、文科省により対策が取られてきているものの、専門家による調査の欠如とそれによる見落とし、封じ込めや囲い込み工事後の漏えい事故の発生など、ずさんな調査および管理体制の問題などが繰り返し発生しています。

海外では、吹付アスベストがある学校で働いていた教職員の石綿被害の事例が多数報告されている。一方、日本では、教職員の石綿による労災・公務災害の認定はまだ少数である。しかし、本年4月に、胸膜中皮腫で亡くなった元教師の方が労災として認定されるなど、教員の石綿被害が指摘されつつある。また、日本国内で、学校教員でアスベスト関連疾患を発症し、石綿健康被害救済法に基づく認定を受けている方は2018年度まで計207人にのぼります(「石綿健康被害制度における平成18年度被認定者に関するばく露状況調査報告書」より)。

絶対、絶対、絶対、絶対、絶対、絶対、あきらめない!(中皮腫Bさんからのメッセージ)

人間は誰でも死ぬ。死なない人はいない。これは絶対であり、絶対は真理だ。心理は絶対である。などと昔に、なんとなく、誰かから聞いたことがあります。

30才過ぎて、すぐ、大きな交通事故に遭い、まさに死んでいました…。

が奇跡的に生き延びました。それ以降、明日、死んじゃうかもしれない、

と思い生きてきました。今回、悪性胸膜中皮腫になり…検査後、予後(余命)1年4か月と診断を受けました。

令和1年の12月頃から背中の肩甲骨の下あたりに痛みがありました。最初は筋肉痛かなんかかな?と思っていました。近所の接骨院に行き、マッサージして頂き、鍼治療もして頂きましたが、痛みが引きませんでした。

私の知り合いが同じような痛みをかかえ、病院に行き、検査をしたら肺がんで、入院後2週間位で亡くなりました。

そのことが頭をよぎり、明けて令和2年1月、少し大きめの病院に行き、診察を受けました。最初の問診の際は、「筋肉痛ですかね~」と先生も仰っていましたが、念のためレントゲンを撮りましょうとなり、そのすぐ後、ちょっとCTも撮らせて下さい。となりました。CTの画像を先生と一緒に見ながら、もしかしたら…中皮腫かも知れません。別の病院を紹介するので、詳しい検査後、治療にも進める、家の近くの病院を進められました。今、治療を受けている関東労災病院です。労災病院で検査、入院をし、3月頭に、悪性胸膜中皮腫である旨、伺いました。

今まで生きてきた中で、アスベストを吸ったであろう機会はあったかと思います。病院の診察室の壁に「なんで俺が…」と疑問を呈した藤本儀一のポスターが貼ってありました。

「なんで俺が…」とは、今のところ、私は思っていませんが、終わりを宣告されて、まして私の場合、リンパや骨にも転移しているので手術のしようも無く、終わりを、待っている日々が続きます。もちろん少しでも可能性を信じて、

化学療法での治療を続けています。背中や脇腹の痛みは続きます。痛み止めを毎日、何錠も飲みます。痛みは引きません、化学療法も思ったようには効かず、現在、3つ目の抗がん剤を点滴にて入れています。

1つ目はほとんど効かず、2つ目は少し効いて、半年位、進行が止まりました。

その2つ目も効かなくなったゆえ、3つ目に移行しました。

このまま行くと、来年の春には、この世にはいないな~、困っちゃったな~、

残された家族はどうなっちゃうのかな~?まさに死に向かう、終活中ではありますが、中々、実感はわきませんねェ~。

本当に、つい最近、労災の認定がおりました。ありがたいと感謝しています。

でも、生きれた方がもっと良いよね~。これから、痛みも増えて、やがて食欲も無くなり、苦しみが増して、死んじまうのか!と思うと、もの凄い虚脱感に襲われます。いやいや、もっと苦しみ、もっとあっけなく、それこそ戦争で死んじまうことよりも、まだ自分はマシじゃん!と自問しますが…。中々、

そうそう、うまくは行きませんね…。

息子には、親父の背中を見せてあげるべく、過ごしたい!うろたえず、自殺もせず、最後まで命を全うしたい!

嫁には、自分が死んだ後も、生きていけるように、出来るだけのことをしたい!

母には…、自分が先に死なないように、神様に祈ろうか…。

死なない人はいないけど、良い死にざまはあるんだろうな~ アスベストが原因といわれている中皮腫。

誰のせい、とかは、わからないけど、今後、アスベストが一切使われないことを望むし、少しでも、病気になってしまった人が、尊厳を失うことなく、人生を全うすべく、生きて頂きたいし、自分も笑顔で生きていきたいと切に願います。

「例え明日、世界が滅亡しようとも今日私はリンゴの木を植える。」

絶対、絶対、絶対、絶対、絶対、絶対、あきらめない!