中皮腫患者アンケートを元にした論文4本が日本肺癌学会の学会誌に掲載されました

私たちは2019年度と2020年度に高木仁三郎市民科学基金の助成を受けて「中皮腫患者に対するピアサポート活動と石綿ばく露調査」を実施しました。この調査は中皮腫患者の現状を患者自身の手で調査、集計、分析し、実態を明らかにすることで、社会保障制度や医療環境の改善や患者どうしの情報共有、励まし合いにつなげていくために行ったものです。

 私たちのメンバーが中皮腫患者に会いに行き、現在の治療内容、日常生活の身体機能の制限、手術後のQOLの変化、治療における副作用や合併症の有無、就労状況と経済状況、石綿ばく露の原因を、質問票を用いて面接で聴取していく予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の流行により調査手法を郵送やオンライン面談による聴取に切り替えました。以下の分類に応じて17項目46個の質問を設けました。

⑴ 回答者について/性別、年代、居住地(都道府県)、中皮腫の種類

⑵ 治療内容について/現在と過去の治療の比較、手術の種類と術後のQOL(生活の質)、日常生活における身体機能の制限、治療における副作用と合併症、実施した補完代替医療、治験の有無

⑶ 就労状況と経済状況について/発症前と発症後の就労状況の変化、就労の理由、世帯の収入と支出の状況、生活の困窮の有無

⑷ 現在の気持ち/何をしたいか、支えとなるもの、気を付けている事、一番つらかった事、家族への想い、励まされた言葉、嬉しかった言葉、大切にしている事、医療従事者や行政に対する要望

⑸ 石綿ばく露の機会について/職歴、石綿ばく露の自覚の有無

 皆さまのご協力により2019年度と2020年度の合計で163人の中皮腫患者さんから回答を得ることができました。この163回答については『中皮腫患者白書-実態調査アンケートから見えてきたこと-』という書籍にまとめましたので、ご関心ある方は上記リンク先をご参照して下さい。

そしてこの中皮腫アンケート調査結果を踏まえ、兵庫医科大学の助教の福神大樹さんが以下4本の論文を日本肺癌学会の学会誌に発表し掲載されたので、紹介します。

中皮腫発症に伴う労災保険制度の申請における医師の役割と課題
この論文では、患者は医師からの相談窓口への紹介が増加した場合,労災保険制度申請の増加がみいだされたこと、また患者会からの助言・指摘が増加した場合も労災保険制度申請の増加がみいだされたことについて考察しています。

中皮腫発症に伴う労災保険制度申請における相談支援部門の活用状況
この論文では、患者は相談支援部門から石綿ばく露に関する情報提供を受けた場合,労災保険制度の申請が増加傾向を示唆する結果になったこと、労災保険制度を選んだ理由に関しても患者自身の石綿ばく露に関する記憶だけでなく,医療機関や患者会等の助言が大きな要因になっていたことを考察しています。

中皮腫を発症した患者の経済的困窮の自覚と年齢の関連―就労状況の変化に着目して―
この論文では、中皮腫発症に伴い「休職」していて、「労災保険」の給付を受けていない「石綿健康被害救済制度の認定」の患者に経済的困窮の自覚が発生しやすいこと,特に60歳未満は経済基盤が不安定になりやすいこと。今後は就労していた若年・中高年世代に考慮した相談支援の拡充や制度設計の見直しが求められることを考察しています。

中皮腫を発症した患者の経済面における心情的困窮感の発生要因の検討―患者アンケートによる収入面と支出面の分析を通して―
この論文では、収入面では「老齢/障害年金」「権利収入」の増加で心情的困窮感の係数が減少し,「家族からの支援」の増加で係数が増加したこと。支出面は33万円/月が心情的困窮感の発生の有無の境界になっており,年齢層では心情的困窮感は特に若年者で多く見られたことを考察しています。

以上の通り、この論文は中皮腫の患者団体自らが患者の実態調査アンケートを実施し、それを元にして専門家がまとめた考察です。中皮腫患者を取り巻く様々な困難な課題が、この患者アンケート調査と論文に詰め込まれているので、ぜひご一読下さい。