右田孝雄さんの中皮腫8年の生き様が記事になりました(毎日新聞)

許諾書番号 C9102

中皮腫になり「人生充実」 患者のリーダー、闘病8年で逝く 根治薬求め医師と人脈、役所と交渉…

アスベスト(石綿)が原因とされる希少がん「中皮腫」の患者として、同じ病気で苦しむ

人たちをつなぐ活動の先頭を走ってきた右田孝雄さんが3月2日、59歳で亡くなった。

発症から約8年。通夜・葬儀の場で流された本人のビデオメッセージにはこんな言葉があ

った。「中皮腫になってよかった」。明るい雰囲気で多くの患者に見送られた右田さんの生

き様とは。

中皮腫は、肺などの臓器を匿う膜にできる希少がん。発症から急激に進行することが多い。

年間1500人以上が死亡しているが、近年は延命効果のある治療薬も次々に登場している。

元郵便局員で大阪府岬町在住だった右田さんは2016年7月に中皮腫と診断され、医師から

「余命2年」と告げられた。10代の時に建設業のアルバイトをした際、石綿を吸ったこと

が原因とみられる。「頭が真っ白になり、好きなことをやっていこうと思った」。髪を金色

に染め、白ふちのメガネをかけ、それがトレードマークになった。闘病記などをブログで

つづると、多くの中皮腫仲間ができた。

20年近く闘病していた千葉県鎌ケ谷市の元会社員、栗田英司さん(19年に52歳で死去)も

その一人。2人は「長く闘病生活を続ける患者のインタビューなどを通じて患者を勇気づ

けよう」と意気投合し、「中皮腫サポートキャラバン隊」を17年に結成。キャラバン隊は

全国を8回行脚し、闘病経験などを語り、孤独だった患者たちをつなげていった。闘病や

治療の経験を共有してウェブなどで語り合う「中皮腫サロン」も翌年から毎週、開催した。

「金髪の怪しげなおっさん」。名古屋市で会った右田さんの第一印象を患者の岐阜県垂井町

の平田勝久さん(68)はこう語る。実際に話をすると、「穏やかな語り口で、ネガティブな情

報しかない患者に、治療のことを前向きに語り、いつも笑っていた」という。平田さんは

治療が奏功したこともあり、「元気な患者」の一人として今、キャラバン隊の副理事長を務

め、各地を回る。キャラバン隊の自的の―つは長期生存者を見つけて、患者たちに「希望

を見いだしてもらうことだ。右田さんは「死ぬまで元気です」のタイトルで身辺雑記を支

援団体の機関誌に運載した。全国行脚して出会いを重ねるうちに、自らが患者たちの「希

望の墨」になっていった。20S30代の患者もキャラバンに加わった。

「いつのまにか同志(トモ)が集まり 老若男女がひとつになって

広がり始めた道しるべ まだまだ待ってる人がいる

希望が欲しいと嘆いている さあ行こう希望を求めるその場所へ」

右田さんが残した詩だ。

周辺の知人らによると、発症前の右田さんは「自立たない人」だった。ところが、「中皮腫になっ

て、まるきり別の人間になった」という。長女の沙織さん(33)は「外出する時間が多くなって、いつ

会えるかも分からなくなった」と振り返る。多くの出会いを得るとともに、多くの仲間を失って涙に

くれることもあった。亡くなる直前も、他の患者のことば

かり心配していた。そして「この病気になったからこそ多くの人と会え、人生が充実していた」と話

していたという。そして最も大事な希望は、中皮腫の根治薬ができることだっ

た。右田さんは、そのためには医師や製薬会社との運携、協力が不可欠と考え、人脈を築いていっ

た。

製薬会社が中皮腫の保険治療薬として患者自身の免疫の力を用いてがんを攻撃する「オブジーボ」の

承認を自指していると知ると、間髪を入れずにキャラバン隊として承認を求める要望書を厚生労働省

に提出。オブジーボは約7カ月後の18年8月に承認された。

22年6月から右田さんは中央環境審議会・石綿健康被害救済小委員会の委員を務め、石綿健康被害救

済制度の基金の使い道について訴えた。「私たち患者は生き延びたいというのが本音です。命の救済

のために治療研究を支援してほしい」。基金は現在、健康被害を受けた人の療養手当に充てられてい

るが、新たな治療薬の研究開発に使うことを提案した。ただ、環境省は動かず、まだ実現には至って

いない。通夜と葬儀で流されたビデオメッセージは、死去の約1カ月前に録画された。「生きた証し

を残すことができた」と言った後、「中皮腫を治る病気にしたい」と、今後の患者たちを思い、遺志

の引き継ぎを願った。

【大島秀利、写真も】

右田さんの掲載記事

2024年4月8日(月)毎日新聞デジタル 希少がん患者のリーダーが明るく逝った理由 https://mainichi.jp/articles/20240405/k00/00m/040/290000c 

2024年4月15日(月)毎日新聞夕刊 7面 中皮腫になり「人生充実」 患者のリーダー、闘病8年で逝く 根治薬求め医師と人脈、役所と交渉…