中皮腫治療・療養におけるQOL(クオリティ・オブ・ライフ)とADL(アクティビティーズ・オブ・デイリー・リビング)の視点とリハビリテーションの役割

公開日:2020年7月9日

中皮腫患者さんにとって、治療方法が確立がされていないことから、診断後の治療選択は患者さんがそれまでに歩んでこられた中で育まれた人生観からも影響を受けることがあります。ここでは、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)とADL(アクティビティーズ・オブ・デイリー・リビング)の考えをリハビリテーションとの関係で整理し、それぞれの患者さんの治療選択や療養方針の検討をする際の参考としていただければと思います。

クオリティ・オブ・ライフ(quality of life)の考え

クオリティ・オブ・ライフ(quality of life)という言葉を聞いたことがある方もおられると思いますが、「生活の質」、「人生の質」などと訳されます。

医療の領域では、次のような考え方として示されています。

治療や療養生活を送る患者さんの肉体的、精神的、社会的、経済的、すべてを含めた生活の質を意味します。病気による症状や治療の副作用などによって、患者さんは治療前と同じようには生活できなくなることがあります。QOLは、このような変化の中で患者さんが自分らしく納得のいく生活の質の維持を目指すという考え方 出典:国立がん研究センター がん情報サービス クオリティ・オブ・ライフ

つまり、心身のつらさや痛みを可能な限り和らげて、その患者さんらしい過ごし方ができるようにする、という視点です。痛みや苦痛を伴ってでも、「治癒」を目指すのが医療の至上目的とする時代がありました。そのような考え方に対して登場してきた考え方でもあります。

しかし、先に触れたように、Lifeには「生活」という意味以外に、「人生」という意味も内包していますので、それぞれの人生観とも密接に関係してきます。がん療養を通じて、患者さん本人の人生そのものの質を高めていくという考えも含まれています。

患者と医療者においては、QOLと生存期間の観点から治療方針の意識に差異が生じているという研究(谷山ほか「がん診療におけるQOLと生存期間の優先順位の検討ー乳がん患者・医師・メディカルスタッフの比較ー」『Palliative Care Research』第9巻第3号)もあります。

WHOが示す「健康」との関連

WHOは「健康」を次のように定義しており、これがQOLの概念に相当するとの指摘もあります。

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。 出典:公益社団法人 日本WHO協会 健康の定義

肉体的な健康に限定されず、精神的なものから社会的なものを含んでいます。そして、WHOは過去にも上記の定義について改定を審議したこともあったように、不変的なものではなく、時代や環境に即して議論を続けていくことが必要としています。

現に中皮腫を発症している患者さんが、このWHOの定義する健康を目指すことには限界がありますが、肉体的な健康以外の部分については工夫できることがあるかもしれません。

QOLは身体的健康状態だけを指すものではない

ここまで触れてきたように、QOLは身体的な健康状態だけを指すものではありません。医学的な治療や看護的ケアの観点からQOLが語られることが多く、それは欠かすことはことができない要素ですが、「身体的状態」以外にも「心理的状態」「社会的交流」「経済的状態」「宗教的・霊的状態」(進行・崇拝・遵守・信条・実存・超越などの意味を含む)などを含むもので、内的要因と外的要因が相互に関連しながら変化していくものです。

中皮腫患者のQOL向上の実践例

中皮腫サポートキャラバン隊の共同代表である栗田英司は、1999年12月の診断前後から、「自分は何をしてきたか」「自分は何がしたいか」「何をすべきだろうか」自問自答しています。そして、再び学生をして勉強をしたいとの思いから、13年間勤めていた会社を退職して、職業訓練校への入学を決意しました。職業訓練校への入学後に出会った友人らと、授業以外で多くの娯楽を楽しんでいたようです。

栗田は書籍の中で当時を振り返り、友人らとの充実した生活に対して「がんで余命を告げられるって、そんなに悪いことではないなと思った」としています。肝心の学業の方は、「遊ぶことにかまけてしまい何も残らなかった」そうですが。

クルーズ船での世界一周旅行、米国へ大リーグ観戦に行くなどされてきた患者の方々もいます。患者さんによって、「自分らしい生活」や「自分がしたい生活」の目指す姿はそれぞれだと思います。中皮腫と診断されたからこそ、そのようなことを考える時間をつくり、患者としての人生について考えてみることもQOLを高める一つの手段と言えるかもしれません。「患者であっても、人生をどう楽しむか」、あるいは「患者としてどのように人生を楽しむか」といった視点が大切かもしれません。

痛みが辛くて、そんなことをする気力も体力もない、という方もおられるかもしれません。医療的なケアによって、そのような状態を少しでも改善することもQOLを高める手段です。がん拠点病院を中心に、医療機関には医師や看護師以外にも多くの職種の方々がおられます。そのような方々のサポートを受けながら、個人の価値観などの内面的な状態にも意識を向けていくことで、患者さん自身が充実していると思える生活に近づけていけるかもしれません。

アクティビティーズ・オブ・デイリー・リビング(Activities of Daily Living)の考え

ADLとは、食事・排泄・移動・着脱衣などの日常生活における基本動作を指しており、これらの動作においてどの程度の自立生活が可能であるかの評価の指標としても用いられます。

がん患者の方を対象としたADLに関する研究(瀬山ほか「大学病院における終末期がん患者が抱える日常生活動作の障害と看護支援の検討」『群馬保健学紀要』第29巻)では、ADLの低下と看護の関連性について触れられています。

ADLも一つの指標ですが、実際にADLが低下した際に患者さんご本人や家族が求めるケアの形も、人によってさまざまです。さらに、ADLの中にも、食事・排泄・入浴などの「基本的日常生活動作」を指すBADL(Basic Activity of Daily Living)と、食事の準備・買い物等の外出移動・選択などの「手段的日常生活動作」を指すIADL(Instrumental Activity of Daily Living)があります。

QOLとADLの維持・向上とリハビリテーション

リハビリテーション(Rehabilitation)とは、「社会復帰」の意味がありますが、「再び人間らしい状態にする」というのが本来的な意味としてあります。障害を持つ場合にできるだけ、それ以前の社会生活を取り戻すためにあり、限定的に病院などでの「訓練」だけを指すものではありません。

がん患者の方の場合は、手術・抗がん剤・放射線治療などによって多くの場合は副作用や後遺症があらわれます。そのような状態にあっても、患者さん自身の回復力を向上させ、その時点で患者さん自身が持っている能力の維持・向上を図りながら、日常生活を取り戻すことを支援することなどを目的とします。すなわち、QOLやADLの維持・向上につながります。

がんのリハビリテーション治療には4つの段階があるとされています。

出典:国立がん研究センターがん情報サービス がんの療養とリハビリテーション

診断のそれぞれの段階で、具体的なリハビリの実践形態も異なってきます。主治医やがん相談支援センターを通じて、ご相談をしてみましょう。

参考

がん情報サービス 「がんと共に生きる、働く時代がやってきます」

栗田英司(2018)『もはやこれまで』星湖舎

土井由利子「総論ーQOLの概念とQOL研究の重要性」『保健医療科学』第53号3巻

WHILL株式会社 ADL(日常生活動作)を維持したい。その意味と評価項目

公益社団法人 日本リハビリテーション医学会 がん(悪性腫瘍)のリハビリテーション治療

医療法人協和会 協和会病院 リハビリテーションとは

大阪医科大学 リハビリテーションってなあに?

国立がん研究センターがん情報サービス がんの療養とリハビリテーション