中皮腫・肺がん・アスベスト疾病で会社が廃業していても労災認定された事例

石綿労災は会社が廃業していると認定されない!?

労災請求のご支援をさせて頂いていると当たり前のこと過ぎて、このようなことはあえて書く必要はないとも言えるのですが、「会社が残ってないので労災は無理ですよね?」とご相談いただくことが、定期的にあります。会社が残っているか否かは直接的に労災認定には関係ありません。これまで紹介してきた下記の事例も全て会社は廃業していました。

会社が廃業していても石綿労災が認定された事例

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東京に住む80代の肺がんの男性Aさん。4年半前に発病し、療養中とのこと。建設作業員(左官)として仕事をしてきた、とのことでした。ここで2つのことを考えます。①左官をしてきたということはアスベストばく露の可能性があり、アスベスト肺がんで労災認定される可能性がある。②4年以上前に発症した肺がんなので、将来的に労災認定となれば一部の請求に「時効」が発生している。

したがって、すぐに会いに行って職業上の石綿ばく露について聴取するとともに、「【中皮腫患者さんには、とにかく早く会って、話を聞く!つくづくそう思った相談】群馬に近い埼玉県内でもすぐに会いに行った事例」でおこなった形(聴取の依頼は除く)で、その日のうちに立川労働基準監督署に行って7号と8号を提出しました。これでとりあえず時効は止められ一安心。

しかし、この時点で気になっていたことが大きく2つ。

その1。「認定基準相当の医学的所見が確認されるのか」という問題。「アスベストによる肺がん」でも書いていますが、「石綿肺がんの労災認定基準」は少しややこしい問題もあります。来月くらいには、「認定(判定)基準!?やっぱりこんな程度か」と嘆いてしまいたくなる事例をご報告できる予定ですが、ともかく医学的所見があるかどうか。

その2。Aさんが、「会社も全て廃業してなくなっている。年金の加入記録も雇用保険の記録もない」という問題がありました。「石綿による疾病に係る事務処理の迅速化等について」の通達でも、基本的なところでは公的記録の確認が肝になっており、悩ましい問題でした。

とにかく、具体的なお仕事の内容(事業所名、社長や同僚の名前、だいたいの就労期間と現場名、作業内容など)を丁寧に掘り下げてお話をお伺いし、意見書を作成して提出しました。また、Aさんについてはご自身で労働者であったのかどうか曖昧でしたので、事業所ごとに労働者性の判断について検討した資料も作成して提出しました。労働者性の判断については、「労働基準法研究会労働契約等法制部会の「労働者性検討専門部会報告」(平成8年)と労働基準法研究会「労働基準法の「労働者」の判断基準について」(昭和60年)を基本的には参照しました。後日、ご報告したいと思っています劇団員の労災認定事例についてもこれらを参照して労災請求が可能と判断しました。

提出した資料の一部

それでも、請求から労災決定まで1年以上を要して労災認定となりましたが、残念ながら調査中にAさんはご他界されました。

懸念していた認定基準の医学的所見では、石綿肺と胸膜プラークの所見が認められました。認定上の石綿ばく露期間は、申立としては20年以上の石綿ばく露期間を主張しましたが、多くの事業所で「労働性不明」や「労働者性なし」と判断されたものの、1つの事業所に限って労働者性と石綿ばく露期間3年が認められて(会社は廃業し、雇用保険等の記録もなかったのですが、Aさんが1970年7月に撮影した「○○工務店」と記載のあった社員旅行の写真をお持ちで、ご存命されていた事業主の妻の証言が取れたことが大きな要因)認定となりました。「石綿肺所見」があれば、判断として石綿ばく露従事期間は関係ありません。

Aさんもご家族も当初は労災になんかならないと思っていました。そういう方こそ、ご相談ください。