中皮腫・アスベスト(石綿)疾患と建設業・建物の関係:使用箇所と年代
更新日:2020年6月8日
公開日:2020年5月10日
中皮腫をはじめとして、アスベスト被害は減少することなく続いています。それに伴い、労災制度への請求や救済制度への申請、補償や賠償を求める被害者の件数は減少をみていません。アスベストが使用された建物の解体工事のピークは2020年代とされており、解体工事をいかに適切にするかによって今後数十年先の被害の様相が変わってきます。特に、これまで多くの建築材料にアスベストが使用されてきました。
目次
アスベスト(石綿)とは
アスベスト(石綿)は、天然の鉱物繊維です。日本では戦前と戦後まもない時期に北海道や熊本で採掘されていることもありましたが、大部分は輸入されたものが市場において使用されてきました。カナダや南アフリカなどが主な産出国でした。現在、日本では輸入・使用等が禁止されていますが、アジア地域を中心にロシアや中国で産出されたアスベストの使用が続いています。
アスベスト(石綿)の種類
アスベストはいくつかの特性を持った鉱物ですが、大きく2つのグループ、6種類に分類することができます。代表的なものは、使用量がもっとも多かった白石綿(クリソタイル)、発がん性がより高いとされる青石綿(クロシドライト)、茶石綿(アモサイト)です。
アスベスト(石綿)の特性
アスベストは断熱性、耐火性、耐摩耗性、防音性、防腐食性があります。使用していた当時は安価で、原料石綿を紡織などに加工しやすく、最盛期には3000にも及ぶ製品に利用されていたとされます。このうち、90パーセント以上が建築資材に利用されました。「魔法の好物」や「奇跡の鉱物」と言われることもありました。
中皮腫・石綿肺がんなどアスベスト疾患発症の原因に
鉱石として特徴的な性質を持ち、盛んに工業利用されましたが、アスベスト繊維1本の太さは髪の毛1本の5000分の1の太さ(言い換えれば、髪の毛1本の幅に5000本のアスベストを入れることができる)のため、吸入して肺(肺胞)に到達して残留することで中皮腫や肺がんなどのアスベスト疾患を発症させる原因にもなります。最初の吸入から肺がんや中皮腫の発症までの平均年数は3、40年ほどとされています。
身のまわりの代表的なアスベスト建材
代表的なアスベスト建材についてどのような用途で使用されたのか整理すると次のようになります。
吹き付けアスベスト
製造時期:1959年から1975年頃。
石綿の種類:青・茶・白石綿。含有率は50から70パーセント。
使用箇所:鉄骨・鉄筋造の柱、梁、壁、天井
出典:有限会社エイキ アスベスト除去工事サービスの内容
吹き付けロックウール
製造時期:1961年から90年頃
石綿の種類:茶・白石綿。人口の鉱物繊維であるロックウールに3から30パーセント含有。
使用箇所:鉄骨・鉄筋造の柱、梁、壁、天井
出典:フジマテリアル株式会社 ロックウール吹付
ひる石吹き付け(バーミュキュライト吹き付け)
製造時期:1965年〜1989年頃
石綿の種類:トレモライト石綿。約5から40パーセント含有。
使用箇所:鉄骨・鉄筋造の柱、梁、壁、天井。保育園や学校に多く使用。
都営住宅とURのひる石使用住宅などの調査などもされています。
出典:三協化学株式会社 吹付けバーミュキュライト(ひる石)とは
アスベスト耐火被覆板
製造時期:1955年から2000年
石綿の種類:青・茶・白石綿
使用箇所:鉄骨
注:写真は一般の耐火被覆板
出典:株式会社 NENGO 耐火被覆工事
アスベスト保温材
製造時期:1914年から1980年
石綿の種類:多くの製品は主に茶石綿・白石綿
使用箇所:工業・科学施設、ボイラー室や空調設備室における配管(エルボ、弁類など)、ダクト、パッキンなどに使用されました。板状・筒状・布団状・ひも状・水練りなど多くの種類がありました。
配管エルボの保温材
出典:国土交通省 目で見るアスベスト 建材(第2版)
成形版:石綿含有スレート
製造時期:早いもの(石綿含有スレートボード・平板)で、1931年から2004年
石綿の種類:主に白石綿
使用箇所:一般住宅、駅、工場などの屋根や壁
出典:有限会社エイキ アスベストが含有されているスレート屋根にご注意ください
成形版:窯業系サイディング
製造時期:1960年〜2004年
石綿の種類:茶・白石綿
使用箇所:防火構造の木造外壁に多く使用。
出典:株式会社 不二産業 窯業系サイディング
成形版:フレキシブル版
製造時期:1952年から2004年
石綿の種類:茶・白石綿
使用箇所:アスベストとセメントを混ぜた板状のスレートボード。内装材として壁や天井などに使用。
注:写真は非石綿含有
出典:チヨダウーテ株式会社 チヨダセラフレキ
成形版:ケイ酸カルシウム板
製造時期:1963年から1997年(第2種)、1960年から2004年(第1種)
石綿の種類:白・茶石綿
使用箇所:鉄骨の耐火被覆材、軒下(軒天)、風呂場や台所の壁・天井など
出典:熊本県 アスベスト(石綿)について
ロックウール天井吸音板(岩綿吸音板)
製造時期:1961年から1987年
石綿の種類:白石綿
使用箇所:天井材(内装材)や軒天井材(外装材)として、一般建築物、公共施設などの天井に使用。
出典:原工務店 アスベストの調査
木造日本家屋のアスベスト建材
木造日本家屋に石綿吹き付け材は使用されていません。しかし、耐火・断熱・防音・防湿などのために石綿含有成形板が使用されている可能性があります。屋根、軒下(軒天)、外壁、天井、内壁、床、台所、風呂、トイレなどの使用について注意してください。なお、グラスウールには石綿は含有していません。
出典:日重環境株式会社 各種分析受託事業 アスベスト分析
鉄筋・鉄骨のアスベスト建材
石綿吹付材と成形板などが使用されています。成形板については、短期的には使用箇所の把握をしていただくだけでも問題ありません。吹付材は専門の調査機関に相談し、計画的に除去をしていただくのが良いです。
1875年以前に竣工した鉄骨・鉄筋の9割に吹付アスベストが使用されてきたという指摘もあります。石綿吹き付けに関しては主に、1959年ごろから1990年ごろにかけての使用とされています。
鉄骨への吹き付けはもちろん、鉄骨の耐火被覆板、エレベーターシャフト、天井板、ベランダ、Pタイル、給油室、間仕切り壁、ボイラー室や電気室、機械室、駐車場の吹き付けアスベスト、ボイラーの断熱材、ダクトの保温材、エルボの保温材、水道管などに注意が必要です。
調査は建築物石綿含有建材調査者に依頼
国土交通省、環境省、厚生労働省は「建築物石綿含有建材調査者講習制度」を運用しています。民間部門でも類似の資格制度がみられますが、調査が必要な場合は国家資格保有者に依頼するのが良いと考えます。同制度などについては、「建築物石綿含有建材調査者協会」などの情報を参考にしてください。
アスベスト含有に関する問い合わせの例(Q&A)
Q1 家の近所で解体・改築工事があります。アスベストがあるのか、ある場合は適切に処理されるのか不安です。
①まずアスベストの届け出が都道府県や管轄の労働基準監督署に提出されているか確認してください。民間建築物の解体や改築の工事に際して、事業者はアスベストの有無について事前に調査して、あった場合には届出が義務付けられています(大気汚染防止法で定める一定以上の建物)。また、石綿障害予防規則では建物の規模に関係なくアスベストの有無を調査して、吹付石綿などの除去作業をする場合は労働基準監督署への届出が義務付けられています。
②行政機関への問い合わせを踏まえ、実施業者に近隣住民を対象にした説明会の開催を求めて説明を受ける方法もあります。質問状を出して業者の対応をみることも考えられます。
③業者が誠実に対応してくれない場合などは、自治体や労働基準監督署に指導を依頼することなども検討できます。
参考
・環境省 建築物の解体等における石綿飛散防止検討会 第4回配布資料 石綿含有建材の使用実態
・環境省水・大気環境局大気環境課(2014)「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル」
・中皮腫・じん肺・アスベストセンター(2005)『【図解】あなたのまわりのアスベスト危険度診断』朝日新聞社