アスベスト(石綿)肺がんの逆転労災認定:茨城・水戸労働基準監督署 喫煙(タバコ)歴は関係なし

更新日 : 2020年5月7日

公開日:2019年12月31日

建設業に従事してアスベスト肺がんを発症

茨城県内に在住の男性であるOさんは、2014年に肺がんを発症しました。長年、建設労働者として18社で勤務し、石綿製品が被覆材や建材として用いられる建物、その付属施設等の建築・補修または解体作業に従事してきました。

Oさんは、平野亀戸ひまわり診療所の平野敏夫医師に、レントゲン・CT画像を読影を依頼し、アスベストばく露によってのみ発生するとされている良性の病変である「胸膜プラーク」の存在を確認していました。石綿労災における肺がんの認定基準では、いくつかの要件がありますが、認定者の多くは「胸膜プラーク所見+石綿ばく露作業従事期間10年以上」の基準で認定されていることが想像されます。

労働者性も確認し、労災請求へ

Oさんからは当初、「自営業」で仕事をしていたと聞いていましたが、給与体系や作業時の指示系統などを細かく聞くと請負で仕事をしていたこともあったようですが、平行して日給月給で仕事をするなど「労働者性」が強く疑われる実態があることも確認できました。2018年1月19日に水戸労働基準監督署に労災請求をして、あとは認定を待つだけの状態だと判断しました。

予想外の労災不支給の通知

ところが、同年6月になって不支給決定通知が届きました。調査結果復命書を取得したところ、主治医も労災協力医も「胸膜プラークなし」との判断をしていました。8月に茨城労働者災害補償保険審査官に対して審査請求の手続きに入りましたが、同時に、平野医師に協力を頂いて石綿健康被害救済制度への申請をしました。救済制度への申請は、判定の基準が労災制度と異なることなどから不認定になることを想定しつつも、「胸膜プラークあり」の判定を得ることを狙ったものです。

石綿救済制度では不認定ながら「所見あり」。逆転認定へ

想定どおり、救済制度からは不認定の通知が届きましたが、情報公開請求によって判定の議事録を取得・確認したところ、「胸膜プラークあり」の判定でした。さっそく、証拠として判定結果と議事録を提出した。この時点で2019年7月となっていました。

結果、2019年11月28日に茨城労働者災害補償保険審査官の決定が出されて、原処分取り消しとなりました。Oさんとは、不支給処分を受けた直後から、このようなおかしな決定に対しては認定されるまで諦めずに申し立てをしていくことを確認しながら進めることができました。休業補償については時効になってしまっていた期間もありましたが、結果的に原処分が取り消されて一部期間について給付がされることになりました。

労災協力医の誤診

しかし、茨城県でもこれまでに石綿肺がんに係る請求をして、同じような形で不認定になってしまったケースもあったのではないかと想像されます。そもそも今回、Oさんが受診していた医療機関は都道府県がん診療拠点病院と指定されている県内有数の医療機関でありましたし、茨城労働局が指定している呼吸器関係の労災協力医も同医療機関をはじめとする県内の有力な医療機関の7名の医師たちで構成されています。今回の件で、アスベスト疾患の鑑別にとって重要な指標となる胸膜プラークの読影が適切にされていない一端が明らかになってしまいました。

そのようなことから、2019年12月9日にOさんらと茨城労働局を訪問して要望書を提出、労働局としてして今回の件についてどのような認識をしているのかを確認するために監察官と面談の機会を得ました。まず、労働局としてOさんに謝罪する意思があるのかどうかを聞きましたが、「時間をかけてしまったことは申し訳ないと思っているが、今日の時点では謝罪する、しないは判断できない。労働局長には報告する」との対応でした。また、要望書には過去の不認定者に本件の報告をするとともに相談先として支援団体を記載して個別周知をすること、労災協力医にOさんの胸膜プラークを適切に読影した平野医師を協力医に加えるとともに、読影をはじめとする診断能力のレベルアップを図るための具体的な施策を検討することを要望しました。2020年1月以降、継続してこれらの問題を協議していくことも確認しました。

労働局との面談後、県庁記者クラブに移動して、記者会見を実施しました。Oさんは、顔も名前も出して会見をし、大手報道機関をはじめ、地元新聞社も熱心な取材をして報道をしてくれました。その関係で、茨城県内の肺がんを罹患した方からの相談が何件か寄せられ、中には「自分も肺がんだが、Oさんと一緒に仕事をしていた」という方や、Oさんと同じ病院で肺がんの治療をしている元建設業従事者からの相談もありました。Oさんが、「他にも同じように苦しんでいる人がいるかもしれないから」という気持ちで、誠意を持って会見に臨んでくださった結果がこのような形で現われました。

アスベスト肺がん被害者の救済に向けて

石綿肺がんの補償・救済についてはまだまだ課題が山積みであるが、新たな試みも始まっています。2019年12月に大阪で開催された日本肺がん学会では、肺がん患者団体の関係者と中皮腫サポートキャラバン隊が連携して、石綿肺がんの問題をポスター発表して、問題の整理と今後の課題について検討しています。肺がん当事者団体との連携が今後、新しい道をつくっていくことを期待しつつ、日常相談で寄せられる肺がん患者の方の相談を続けていきたいと考えています。とりわけ、「医学的所見が認定基準に合致していない」建設労働者の肺がん罹患者も散見されるが、現行の認定基準がおかしいことを説明した上で本人たちに意欲があれば、審査請求・再審査請求を覚悟して支援をしていきたいと思います。

なお、アスベスト肺がんの労災認定の判断に、「喫煙歴」は関係ありません。建設労働者をはじめとする粉じん作業に従事して肺がんになった方々は、労災請求をして頂くことが良いと思います。