石綿による中皮腫被害の労災時効救済認定で遺族給付:北海道の事例

23年前の中皮腫被害

「押入れを整理していたら、中皮腫と書かれた父親の死亡証明書と〇〇(大手建材メーカー)の名前が書いてある研修修了証が出てきた」、ということで相談を受けました。被災者であるお父様が他界されたのが23年前ということもあり、相談者である息子さんもお父様の具体的な業務内容については把握しておらず、一緒に仕事をしたことのある同僚労働者なども見つかりませんでした。ただ、研修修了証に記載のあった会社名から、労災認定される可能性が高いのではないかと考えました。

労災認定基準を満たす記録

できることは年金の加入記録と雇用保険の加入記録を確認することくらいでしたが、幸いにもいくつかの事業所での就労記録が出てきました。被災者の具体的な就労実績はわからないままでしたが、2005年に厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長が「石綿による疾病に係る事務処理の迅速化等について」という通達を都道府県労働局労働基準部長宛に出しており、この通達では一定の業種に限定して特例的な事実認定を示しています。噛み砕いて言えば、最悪、公的記録などから在籍が確認でき、その会社の業務内容などから石綿ばく露が推認できれば、石綿ばく露期間があったと認定して良いというものです。注意していただきたいのは、ご遺族の皆さんが「関係ない」と思っている業種でも、このような相談を多く受けている私たちからして「関係ある」と考える業種も中にはあります。

石綿労災だけの「特別遺族給付金」

労災制度の遺族給付は被災者の死亡から2年で葬祭料、5年で遺族年金ないし一時金の請求権が時効となります。このような方々を救済するために、2006年に成立した石綿健康被害救済制度によって、特別遺族給付金の請求が可能となっています。認定されれば、年金ないし一時金の支給がされます。年金受給権者の方は、支給が決まった場合は請求の翌月分から支給(一月あたり20万円)となりますので、迅速な対応が必要となります。

本件の場合は請求から半年以上かかりましたが、このご遺族については上記のような判断事情も加味され、労災認定相当の石綿健康被害救済制度に基づく「特別遺族給付金」(請求期限:平成34年3月27日まで)の支給が決定しました。認定にあたって、ご遺族は「父も浮かばれるでしょう」と話されました。

「23年も前のこと。お金が欲しかっただけじゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。そのような方がいることは否定しませんが、本件のご遺族の方も含め、何年経過してもご家族が中皮腫で大変な療養をしていたときの記憶を鮮明に覚えており、他人が簡単に代弁できない複雑な感情を持ち続けておられる方も少なくありません。患者さんのご他界後に労災認定されることで、整理のつかないお気持ちの全てを解消できるわけではありませんが、ほんの少しだけはご家族の死に対して何らかの意味づけをしていただくきっかけになるのではないかと考えています。

補償・救済の実態

中皮腫で被害にあわれたのに、労災制度でも救済制度でも認定されていない方が実に「4人に1人」の数にのぼります。その救済制度(時効救済除く)よりも手厚い補償のある労災制度(時効救済含む)の認定を受けている数に限定すると、「2人に1人以下」の割合でしか認定されていません。

本件についてはこのような補償・救済の全体状況から、「報道にご協力頂ける事で必ず同じようなご家族の助けになります」という説明をご理解くださり、また、いま中皮腫で療養をしている患者さんを支援する「中皮腫サポートキャラバン隊」の活動にも理解を示してくださりサポーターとして応援を頂きました。このような気持ちを大切にして、中皮腫サポートキャラバン隊の活動にも寄与していきたいと思っています。

参考:松下文音(2019年1月30日)「23年前死亡男性『労災』 『中皮腫』書類で裏付け」北海道新聞