バス運転手の中皮腫によるアスベスト(石綿)被害の時効救済労災認定

腹膜中皮腫を発症

本物の「ししゃも」が獲れる北海道の町の近くにお住まいのAさん。2018年3月にお会いしたのですが、「2007年に亡くなった義理の父の腹膜中皮腫は労災ではないのか。バスの運転手をしていた」ということで相談がありました。

バス運転手の石綿被害

Aさんは、福岡や佐賀の営業所で勤務した西鉄バスの元労働者の労災認定報道をみて問い合わせをされてきました(労災認定に尽力され、報道のための取材も受けられた患者さんとご家族の皆様に心より敬意を表します)。

お会いして話を聞きましたが、「どこかでアスベストを吸ったのだろうな」と思いつつ、具体的なばく露状況についてご遺族は承知されておられませんでしたので、もう一つ決め手に欠く印象がありました。図書資料なども収集しながら、じっくり進めましょうと助言をしました。

労災請求(申請)から認定

少しして、Aさんから「義理の父の元同僚の方と連絡が取れた」との電話がありました。話を聞くと、義理のお父様が結核にかかったことがあり、復帰後に1年ほど整備工場の補助業務をしていたことを覚えておられるとのことでした。そして、労働基準監督署の調査にご協力してくださることの確認も取ることができました。

労働基準監督署の調査結果復命書には次のとおり事実認定が整理されています。

「昭和39年4月から昭和40年3月までの1年間において死亡労働者は整備工場で就労していたものと認められる。(中略)直接作業に従事したものではないが石綿含有部品を運搬したり、整備作業場所の清掃などで間接ばく露があったことは否めないため、当該作業期間に置いて石綿ばく露があったものと認めて差し支えないものと思料する」。

一方で、運転手として日常的に実施していた点検業務(実際に使用していたハンマーも現存)での石綿ばく露も主張していましたが、こちらについては認定されませんでした。

時効救済による遺族補償

いずれにしても本件は、業務上での「1年以上の石綿ばく露」が認定されたことで、石綿救済制度の特別遺族給付金(労災時効救済)が支給されました。

この事案が認定されたのは、元同僚の方の証言があったこと、その同僚の方を探して懸命に説得なされたご遺族の皆様の尽力が全てと言っても過言ではありません。

本件が社会的に広く認知されるべきと考え、ご遺族の皆様に報道発表を打診し、会見を実施することもできました。当日の事前打ち合わせまで「顔出し・名前だしはNG」としていたはずだったのですが、会見直前に「名前も写真も出して良い」との英断をされました(何も説得していなかったのですが)。理由は、「同じように原因がわからず苦しんでいる人の役に立ちたい。中皮腫サポートキャラバン隊などのみなさんが中皮腫100人集会であんなに懸命に被害を訴えているのだから、会見場に来るあいだに決意した」とのことでした。

西鉄バス報道で被害を訴えられたご遺族の皆様の思いが、北海道でこのような形につながり、北海道からこの報道を通じて、必ず誰かに何かが届いていると確信しています。これからも、こういう患者さんやご家族の思い一つひとつを大切にしていきながら、キャラバン活動も一人ひとりの「心」を忘れずに支援をしていきたいと思います。

参考記事:樋口岳大(2017年9月30日)「西鉄バス元運転手 石綿労災 昨春死亡「点検で吸引」認定」『毎日新聞』(西部本社版)

樋口岳大(2017年10月16日)「西鉄バス石綿 元車掌も 木炭バスで吸引 労災認定 10年に死亡」『毎日新聞』

松下文音(2018年8月8日)「道南バス元運転手の石綿労災認定 整備工場の作業で」『北海道新聞』