中皮腫の原因は!?アスベスト(石綿)労災認定の可能性

原因不明の中皮腫の石綿労災認定事例

建設業:電気工事のケース

2016年12月、「息子が中皮腫になった。原因がよくわからない」という相談がありました。

原因が不明と言われる方はそれなりにおられます。そういう方の中でも、半数以上の方はよくよく話を聞くと「これは労災になりそうだな」と思う方です。「中皮腫=どこかでアスベストを吸っている」ので、注意深く話を聞くことで、患者さんご本人の自覚がない石綿ばく露を確認できたりします。今回紹介する事例はそのような話です。

さっそく、ご本人とお会いすることにしました(問い合わせがあったその日か次の日には会いに行く!が私の中皮腫患者さんの相談を受けた際の基本的スタンスです)。

患者さんに職歴を聞くと、①配送業、②食肉等の生産・販売業、③印刷機・電話機の販売業、④クリーニング業、⑤介護サービス業などに従事されておられました。ざっと概要を聞いただけでは、たしかにアスベストとの関連がすぐには結びつきませんでした。ですが、会社ごとに詳細に話を聞いていると、「そういえば」という話が、「印刷機・電話機の販売業」の仕事で出てきました。職種としては事務・営業だったのですが、電気工事の現場に入社後半年くらいから週に1、2回行っていたとのことでした。現場は小規模のマンションが多かったとのことで、電気・電話の新設工事で電気ケーブルの敷設のために同僚が天井裏などに入っており、その際に配線工事の補助作業をしていたとのことでした。あわせて、建築物の解体現場に行くこともあり、直接は解体作業をしていたわけではなかったものの、そばで見ていたり簡単な手伝いをすることもあったようです。

話を整理して労災請求をすることにしました。請求人の主張のとおり、労働基準監督署はこのような事実を認定して、会社に在籍していた6年間=石綿ばく露作業期間として認めました。

患者さんは現役バリバリの50代で、仕事がほとんどできなくなってしまっていたので労災認定されたことに安堵されていました。この患者さんは、中皮腫の治療のためにも遠方に通院されていたので、通院のための交通費なども労災から支給されることになりました。

建設業:とび工のケース

「兄が中皮腫なんですけど、どこでアスベスト吸ったのかわからず原因不明なのです」との相談がありました。とりあえず、すぐに会いに行くことになりました。お会いして、まず驚いたのはその患者さんであるお兄さん(以下、Aさん)が鼻ピアスしてタトゥーを入れているというめちゃくちゃパンクだったこと。まだ40代後半で、現役バリバリの方でした。発病当時もそうでしたが、東京で印刷業関係のお仕事をしながら長年働かれていました。

印刷業での石綿ばく露は否定できないのですが、お話を聞く限りにおいてはばく露状況が明確な印象はありませんでした。このようなときに参照するのが、「石綿ばく露歴把握のための手引」ですこれを見ると、印刷関係でいくつか記載があったりします。しかし、石綿ばく露が明確に確認できませんでした。

実はAさん、お生まれは九州地方。10代の頃に東京に出てこられて、それからずっと東京暮らしなのですが、お話を聞いていると10代の頃に半年ほど実家に戻っており、その間に一般作業員(トビ工)として建設現場で仕事をしていたとのことでした。建築解体作業中に解体(実際には破壊)された瓦礫が現場敷地外に飛び出さないように、防護ネットを持って立っている作業もあったとのこと。

ただ、会社は廃業しており、社長も所在不明、現場がどこだったかなどははっきりと覚えておらず、従事期間も中皮腫の労災認定基準の「1年以上の石綿ばく露」の半分でした。幸いにも、この時期に一緒に働いた同級生が埼玉県にお住まいという事で、後日連絡を取っていただき、詳細なお話を聞くことができました。

労働基準監督署も石綿ばく露については、「被災者がばく露した可能性のあるアスベスト含有製品の製品名の特定はできていないものの、被災者が携わっていた工事は、昭和62年から63年頃であり、それ以前は、石綿が耐熱・耐久性、断熱・防音性等に優れた性質を持ち、身体への有害性が広く周知されていなかったため、多くの建築材料(スレート等の建材、パッキン等のシール材は石綿が含まれているものが主流とされていたもの)へ盛んに使われていた時代背景から考えると、石綿含有製品の使用規制のかかる平成18年までにおいては、被災者が従事した建築物解体(破壊)工事の建築資材には、石綿が含まれていたと推認するのが妥当と判断される」としました。

しかしながら、石綿ばく露期間が半年しかなかったために、労働基準監督署では認定基準に満たないために「本省協議」となりました。本省協議とは、厚生労働省の補償課職業病認定対策室に照会し、そこで選別された事案が「石綿に係る疾病の業務上外に関する検討会」で協議されることになっています(お気づきですか!?そう!認定基準に満たない事案が全て検討会にかけられるのではなく、そこに行く前に職業病認定対策室のフィルターがかかっており、除外される方もいます。この話は非常に重要なのですが、止まらなくなるのでここではやめます)。

本省協議の結果、「建築解体現場での石綿ばく露作業従事歴が認められ、相当程度の石綿ばく露があったものと強く推認でき」という判断から業務上の疾病に該当(労災認定)となりました。

この患者さんは、本稿執筆時点ですでにご他界されています。ご他界後、ご遺族の方から、「自分も他の患者さんのために体調が回復したらキャラバン隊の活動を手伝いたい」と話されていたようです。まだ40代後半で、お母様やごキョウダイを残されてのご他界でした。Aさんの石綿ばく露の時期を考えると、被害は防げたのではないか(戦前に被害が確認された大阪・泉南地域のアスベスト被害の問題に遡り、この地域の被害の歴史をみつめ直すことの意味を改めて問われます)という想いも強くなり、あまりに理不尽な被害の形になんとも言えぬ心情になります。

中皮腫における労災認定基準の「根拠」

2018年4月11日には、元教諭の中皮腫被害について名古屋高裁は、校舎の新築工事中の8ヶ月間の石綿ばく露を認定するとともに、「1年以上という期間の設定に合理性は認められない」として業務起因性を認める判決を出しました(国は上告断念し、判決確定)。判決の中では、「わが国の中皮腫の労災認定基準において、仮に、厚生労働省との協議とするか否かを区切る基準としてばく露期間の要件を設定する必要があるとしても、それはせいぜい2、3か月程度を限度とするべきであると考えられるし、設定されたばく露期間の要件を満たさないものについても、就労場所におけるばく露状況等を検討することによって、中皮腫の発症に業務起因性を肯定すべきものが存在するというべきである」とされています。

2018年4月27日には、約1ヵ月間の神戸震災関連業務にあたっていた元警察官の中皮腫発症に関して、本年3月に地方公務員災害補償基金兵庫県支部公務災害の認定をしていたことが報道で明らかになっています。海外に目を向けると、英国の「数週間」という基準もありますし、日本でも本省協議で石綿ばく露1ヶ月未満の認定例があります。

よく誤解されておられる方がいるのですが、「1年以上の石綿ばく露」というのは、現場に従事した時間や日数を厳密に計算した合計というわけではなく、とりわけ建設現場の仕事などに従事された方は「雇用期間(実態としての労働期間含む)」=「石綿ばく露歴」となります。「中皮腫=石綿ばく露=仕事でアスベストばく露」という視点から原因を探っていくことが大切だと考えています。どんな些細な事でもご相談ください。

労災認定と給付金額の問題

今回、紹介した患者さんの労災認定されたこと自体はよかったのですが、以前に書きました「【給付額が5倍に変更!労災認定されて療養中の患者さんに知っておいてほしい話。その1】」にもあるように、人によって給付額が変わってきます。Aさんの場合は、若い頃の仕事の賃金が平均賃金の算定に用いられてしまいましたので、極めて低額な給付額となってしまいました。このあたりのもどかしさを抱えながら、なんとかしなければと感じながら日々の相談をお受けしています。

参考:2018年4月12日(無署名記事)「元教諭の石綿労災 逆転認定」中日新聞

2018年4月27日(無署名記事)「震災石綿渦 警官で初の公務災害認定 中皮腫で死亡」神戸新聞