中皮腫・アスベスト労災の給付額が3倍に変更された事例

更新日 : 2020年5月2日

公開日:2019年6月26日

アスベスト労災における給付基礎日額(平均賃金)

労災保険の給付額は、「給付基礎日額」というものが算定され、その金額をもとに各種給付がされます。決め方は、大まかに言えば、病気になる直前3ヶ月の給与の平均を算出する形です。

ただし、アスベスト被害のように退職後に発病される方もおられますので、そのような方については、「労働者がその疾病の発生のおそれのある作業に従事した最後の事業場を離職した日(賃金の締切日がある場合は直前の賃金締切日)以前3ヶ月間に支払われた賃金により算定した金額を基礎とし、算定事由発生日までの賃金水準の上昇を考慮して当該労働者の平均賃金を算定すること」(昭和50年9月23日付け基発第556号「業務上疾病にかかった労働者にに係る平均賃金の算定について」参照)となっています。

建設業の現場監督としてアスベストばく露

被災者のAさんは建設会社の現場監督として、約50年間同じ会社に雇用されていました。再雇用され、その期間に胸膜中皮腫を発症されました。Aさんからお話を聞くと、再雇用時代はアスベストを吸っていないんだけど・・・ということでした。しかしながら、調査結果復命書の記録をみると、原処分庁の室蘭労働基準監督署は再雇用後もアスベストを吸ったものとして労災認定していました。

定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定について

2017年に厚生労働省は事務連絡「定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定について 」を発出しています。

Aさんはこの事務連絡が出る前年に、労災認定されていました。ところが興味深いのは、その当時であっても室蘭監督署は再雇用問題があることを認識しており(事務連絡発出の元になった労働保険審査会裁決は2016年7月)、北海道労働局に照会(当時は通達前で室蘭の独自判断)をしていました。しかし、判断の分かれ目となる、再雇時用の石綿ばく露が「あり」という前提で照会をかけていましたので、労働局も再雇用時の賃金をもとに給付基礎日額を算定して構わないと指示していました。

再雇用後にアスベストばく露はなかったと主張

他方、調査結果復命書には、電話聴取記録があり、そこではAさんは再雇用時には「石綿にばく露するような作業はありませんでした」と調査担当者に話していたのです。再度、Aさんにも確認すると、「再雇用後は建設現場には行った。行ったけれども休憩時間に事務所に茶菓子を差し入れにいった程度。そもそもアスベストを使用する時代でなくなっていた」との話でした。

不服を申し立てた審査請求の審理では、Aさんの証言に基づいて具体的に再雇用時代に石綿ばく露がないことを主張しましたが、室蘭労働基準監督署は「現場に行っていた」とだけ強弁して原処分に瑕疵がないと主張してきました。 もともとの調査では、いつ・どんな現場なのかすら確認した形跡がありませんでした。正社員時か再雇用時かで大きく給付基礎日額が変更されることがわかっていたにも関わらずです。

結果的に審査請求では、Aさんの主張が認められて給付基礎日額が見直されることになりました。約6000円から約18,000円という大きな金額への変更でした。残念ながら、この決定が出された時点でAさんはご他界されていました。しかし、生前に連絡をくださり、Aさんご本人から具体的な話を聞くことができたことが非常に大きなポイントでした。

肺がんで石綿(アスベスト)労災補償で給付額変更:北海道・札幌の事例中皮腫の石綿労災遺族補償金額の給付額変更:北海道労働局管内の事案でも触れたような方、Aさんのような方は全国にまだまだおられると考えています。お心当たりのある方はぜひご相談ください。