その時栗田英司が考えた〜同じ病名でもキャラクターに合わせたアドバイス(医療関係者の方へ:2016年9月3日)

下記の文章は、2019年6月に他界した栗田英司さんが、2016年9月3日に執筆された文章です。腹膜中皮腫で19年以上の療養をされた栗田英司さんの中皮腫との向き合い方は、現在療養中の患者さんや医療関係者の皆様のご参考になることもあるかと考え掲載します。

「あなたの病名は中皮腫です」と言われたとき、大抵の人は「中皮腫って何?」と思います。医者から一通り病気の説明を受けますが、ほとんど理解はできません。一大事が起きていることはわかりますが思考停止になってしまいます。

インターネットで調べれば「予後が悪い」「治療法が確立されてない」「根治が難しい」「平均余命○○ヵ月」のような情報が氾濫しています。患者と家族は愕然とした気持ちになって、これからどのようにすればいいのか途方に暮れてしまいます。

そのような人にどのようなアドバイスができるでしょうか?

私は1999年12月24日クリスマスイブの夜、腹膜中皮腫で余命1年と宣告されたとき、まさにそのような状況でした。18歳で東京に上京し、33歳、男、一人暮らし。中小企業のメーカーに13年務めて管理者にもなって、やっと社会的な立場もできたのに… あと1年しか生きられない。なんだか、悲しい…

1999年12月初旬に開腹手術をしました。腹膜にできた腫瘍(5.0㎝×3.5㎝×3.0㎝、36g)を筆頭に、2.8㎝、2㎝、1.8㎝の腫瘍を切除、その他小さな腫瘍(35個)がこびりついた腹膜2kgを切除しました。その際、腹部に抗がん剤シスプラチンを撒いたため体調は著しく悪い状態が続きました。そのような中での余命宣告は精神的なダメージが大きかったのでしょう。それまで務めた会社を辞め、結婚もあきらめ、死を受容し準備をしました。

しかし、1年以上経過しても死ぬ様子がありませんでした。急遽社会復帰のために再就職活動をしましたが、ガン患者が就職活動をするのは大変でした。

その後、再発を繰り返しその都度開腹手術をしました。2004年4月腹膜再発腫瘍摘出手術、2007年12月腹膜再発腫瘍摘出手術、2014年12月腹膜再発腫瘍摘出手術、肝左葉外側区転移切除(握りこぶし程度肝臓切除)合計4回の手術、約16年が経過しました。2016年9月現在、腹膜播種があり肺と肝臓に転移し、手術不可能のため抗がん剤治療を勧められています。しかし、普通の生活を少しでも長く続けたいため抗がん剤治療はしていません。

2006年に石綿救済法が施行されて認定を受けましたので多少金銭的な補助がありますが、男一人生活とはいえ十分な金額ではないので、やはり就労は欠かせませんので今でも働いています。

先日、主治医に「腹膜中皮腫16年はかなりの長期生存と思うがどうして可能になったと思いますか?」と聞いてみました。「よくわからないが」と前置きして「その腫瘍のキャラクター(性質、特徴)だね。中皮腫でものんびりしてるんだよ」と言っていました。

私は16年前告知の時、インターネットや書籍等の情報で中皮腫というのはすぐに死んでしまうものだと思い込んでしまいました。しかし、16年経過し自分は生きているし、他にも10年以上しかも再発していない中皮腫患者を何人も見ています。

統計というものに利用価値があることは否定しません。例えば、中皮腫患者の統計を取って「2年生存率30%」「5年生存率3%」だったとします。しかし、一個人に起こる一回限りの出来事については、すべてが同じ条件ではないのでその確率は無意味です。

物事を一律にとらえることなく判断していれば、違った人生があったかもしれません。こんなに長生きするなら結婚くらいしておけばよかったと考えることもあります(笑)。振り返ってみてこんな場面で相談相手がいたらスムーズに事でしょう。

告知時:余命宣告はあてにならないのでこれまでの生活を継続すること。精神的ケア。

手術時:健康保険制度の高額医療控除、傷病手当金の手続きのこと。

石綿救済法:認定手続きと制度利用のこと。

労災:労災認定手続きと制度利用のこと。

失業時:ガン患者の再就職支援のこと。国民健康保険、国民年金等への変更手続きのこと。

            国民年金免除制度、傷病手当金延長措置のこと。失給付金の手続き等のこと。

闘病生活全般:患者会の紹介、精神的ケア、医療情報等のこと。

中皮腫になった原因については、学生時代に建設業のアルバイトをした経験があるので労災の可能性もありますがよくわかりません。現時点では環境暴露ということで石綿救済法の認定を受けています。

これから中皮腫をはじめとするアスベスト関連疾患患者の増大が予想されています。アスベスト関連の制度、アスベスト疾患特有の精神的ケアについて学んでいただきたいと思います。また、中皮腫だけに限りませんが、病名は同じでも個人のキャラクター(性質、特徴)と腫瘍のキャラクターは千差万別です。患者さんの置かれた立場はそれぞれ違いますから、患者の話をよく聞いていただき、一人一人に対して適時適切なアドバイスをしていただければ幸いです。