【学校関係者の中皮腫・アスベスト被害】公務災害認定や労災認定事例

更新日 : 2020年5月2日

公開日:2019年6月6日

目次

教員の中皮腫・アスベスト被害について最高裁判断

5月28日の毎日新聞の朝刊に「学校の石綿で教諭死亡 遺族敗訴確定」の記事が出されました。

この事件は、1980年から88年までに埼玉県戸田市内の小学校に勤務していた男性が、2007年4月に中皮腫と診断され、翌月死亡したのはのご遺族が地方公務員災害補償基金で公務上認定されなかった処分の取り消しを求めて東京地裁に取り消しを求めていた裁判です。

一審の東京地裁は処分の取り消しを認めて公務災害と認定しましたが、二審の東京高裁は原告の請求を取り消して逆転敗訴していました。最高裁に上告をしましたが、残念ながら上告棄却となり敗訴が確定しました。

これまで明らかになっていた教員のアスベスト被害

これまでにも学校の教員(教諭)ないしは関係者の石綿被害はいくつか明らかになっています。

体育担当教員の中皮腫被害

2010年には、滋賀県内の小学校体育館に使われていたアスベスト(石綿)が原因で、体育担当教員だった男性が悪性胸膜中皮腫で死亡したことに関連して、地方公務員災害補償基金中央審査会で、初めて教職員の公務災害が認められました。審査会は、「体育館は使用頻度が高く、天井に何度もボールが当たり、相当量の石綿が飛散していた」、「床に落ちてた石綿も再飛散していた」、「住居や近隣で石綿は使われていなかった」、「体育担当で体育館に長時間滞在していた」などの判断をしています。

体育教員以外の中皮腫被害

2014年には、北海道苫小牧市立小学校の元男性教諭(享年68)が2005年に中皮腫で死亡したのは、アスベスト(石綿)を使った校舎の増改築工事により石綿を吸引したことが原因だとして、地方公務員災害補償基金北海道支部の審査会が公務災害と認定しています。1962~85年に勤務した3校で石綿建材を使った増改築工事が行われ、教室内に拡散した石綿が掃き掃除などを行った際に空中に舞い上がり、元教員が吸引した可能性が高く、元教員が授業を行っていた教室と増改築工事現場との距離は十から数十メートルあったというものです。

2018年には愛知淑徳中学・高校(名古屋市千種区)の教諭だった男性が中皮腫で死亡したのは校内で飛散したアスベスト(石綿)を吸ったためとして、遺族が国を相手に労災認定を求めた訴訟の控訴審で、一審の名古屋地裁判決を取り消し、訴えを認める逆転勝訴の判決もありました。

中皮腫労災を認めた名古屋高裁が示した指針

この判決では、下記の点について事実認定しています。

・平成18年の労災職業病保険欧州フォーラムで報告された欧州12か国における中皮腫の職業病認定のためのアスベスト粉塵ばく露基準をみると、このうち10か国では、最低ばく露期間の要件が設けられていない(ドイツ、ベルギー、デンマーク、スペイン、イタリア、ノルウェー、スウェーデン及びスイスの8か国では「わずかなばく露でも可」、フランスでは「最低限期間なしで日常的ばく露でも(業務の例示的リスト)」、ポルトガルでは「(業務の例示的リスト)とされている」。)。また、2か国(オーストリア及びフィンランド)では、最低ばく露期間を設定しているが、それは、「few weeks」(「数週間」)というものである。

・イギリスの労災補償制度においては、中皮腫の場合、特定の職業を明示することなく(他の疾患の場合には、より具体的な職業が例示されている。)、「環境一般において通常認められるレベル以上の石綿、石綿粉塵、又はあらゆる石綿混合物への曝露」により中皮腫に罹患した場合、給付対象となる。」とされ、一般環境中の石綿濃度のレベル以上の石綿粉塵にばく露したことを要件としているのみであり、石綿粉塵ばく露期間の要件は設けられていない。

・欧州諸国の状況(中皮腫の労災認定基準において、ばく露期間の要件を設けないか、ばく露期間の要件を設けてもせいぜい「数週間」程度という状況)は、国際的に尊重されているヘルシンキ・クライテリアの(非常に低いレベルのバックグラウンドの環境ばく露は極めて低いリスクをもたらすにすぎないが、短期間又は低レベルの石綿ばく露であっても、中皮腫について職業関連と診断するのに十分である。」)とする見解に符合している。

・ヘルシンキ・クライテリアの趣旨のとおり、中皮腫を発症した者に一般住民の環境性ばく露のレベル(バックグラウンドレベル)を超える職業性ばく露があった場合には、それが短期間又は低レベルのものであっても、他に中皮腫の発症原因が見当たらない限り、当該中皮腫の業務起因性を認めるのが相当である。

・わが国における中皮腫の労災認定において、本認定基準が、厚生労働省本省との協議とするか否かを区切る基準として、「石綿ばく露期間1年以上」を設定したことは、十分な医学的根拠に基づくものということはできず、ばく露期間1年未満の中皮腫を一律に本省との協議とすることに合理性は認められない。

・わが国の中皮腫の労災認定基準において、仮に、厚生労働省との協議とするか否かを区切る基準としてばく露期間の要件を設定する必要があるとしても、それはせいぜい2、3か月程度を限度とするべきであると考えられるし、設定されたばく露期間の要件を満たさないものについても、就労場所におけるばく露状況等を検討することによって、中皮腫の発症に業務起因性を肯定すべきものが存在するというべきである。

控訴審判決は、中皮腫認定基準がばく露期間「原則1年」としていることは、他国にもみられない「長期間」であり根拠がないとしました。石綿ばく露については本人の自覚がないケースも珍しくありません。中皮腫と言われて原因がよくわからない方はまずご相談ください。

参考:

毎日新聞(2010年4月23日)「小学校で石綿公務災害 中皮腫死亡 教諭、初認定へ」

「苫小牧の元教員 中皮腫が公災認定」『安全・衛生じゃーなる Journal』第105号、北海道勤労者安全衛生センター

毎日新聞(2018年4月23日)「教員石綿被害、逆転勝訴 校舎工事で吸引 名古屋高裁」