惜別・右田孝雄さん「笑いと奮闘 苦しみに寄り添い」朝日新聞に掲載されました

承諾番号 24-1393

中皮腫患者を励ますキャラバン隊を結成した 右田孝雄さん

金髪でお調子者のおっちゃんは、大阪弁で自身の体験を語りながら、患者たちを笑

わせていた。前年にアスベスト(石綿)が原因で発症する希少がん「悪性胸膜中皮

腫」で、平均余命は2年と診断されたとは思えなかった。

2017年に福岡市で開かれた講演会では、石綿による健康被害に苦しむ患者や家族を

前に「死ぬまで元気やで!」と笑った。

生まれも育ちも大阪。16年にブログで闘病体験を発信すると、同じ病気の仲間とつ

ながった。残された時間を人のために使いたいと、キャラバン隊を結成した。全国を

行脚して患者たちを励ました。

笑いと奮闘苦しみに寄り添い

 19年に隊の共同代表の栗田英司さん(享年52) が亡くなる。治療や病気の説明を担

当した栗田さんの意志を継ぎ、猛勉強した。同年に北九州で開かれた講演会ではお笑

いを程々に、専門用語をかみ砕いて説明する姿に驚かされた。

 昼夜を問わず電話相談に応じ、度々直接会いに行った。ZOOM で全国の患者と交流

し、専門医と一緒に病気を解説する動画を配信した。

中皮腫の治療法を確立するためにも奮闘した。がん免疫治療薬「オプジーボ」を、

胸膜以外の中皮腫にも使えるように署名を集めて、国や製薬会社に届け、23年の承認

につなげた。中皮腫治療推進基金の創設にも関わり、国に研究費の捻出を求め、石綿

健康被害救済法の改正も訴えた。

妹の江藤栄子さん(57)によると、昏睡状態になるまで「キャラバン隊を頼む」と繰

り返した。葬儀では「中皮腫を治せる病気にして」とメッセージを残した。

 病と戦う患者に声をかける としたら、こう言っだろう。「今を乗り越えよう。今を

乗り越えたら、次を見いだせるしな」。いまもどこかで明る胸く笑っているような気

がする。(伊藤繭莉)