惜別・右田孝雄さん「笑いと奮闘 苦しみに寄り添い」朝日新聞に掲載されました
中皮腫患者を励ますキャラバン隊を結成した 右田孝雄さん
金髪でお調子者のおっちゃんは、大阪弁で自身の体験を語りながら、患者たちを笑
わせていた。前年にアスベスト(石綿)が原因で発症する希少がん「悪性胸膜中皮
腫」で、平均余命は2年と診断されたとは思えなかった。
2017年に福岡市で開かれた講演会では、石綿による健康被害に苦しむ患者や家族を
前に「死ぬまで元気やで!」と笑った。
生まれも育ちも大阪。16年にブログで闘病体験を発信すると、同じ病気の仲間とつ
ながった。残された時間を人のために使いたいと、キャラバン隊を結成した。全国を
行脚して患者たちを励ました。
笑いと奮闘苦しみに寄り添い
19年に隊の共同代表の栗田英司さん(享年52) が亡くなる。治療や病気の説明を担
当した栗田さんの意志を継ぎ、猛勉強した。同年に北九州で開かれた講演会ではお笑
いを程々に、専門用語をかみ砕いて説明する姿に驚かされた。
昼夜を問わず電話相談に応じ、度々直接会いに行った。ZOOM で全国の患者と交流
し、専門医と一緒に病気を解説する動画を配信した。
中皮腫の治療法を確立するためにも奮闘した。がん免疫治療薬「オプジーボ」を、
胸膜以外の中皮腫にも使えるように署名を集めて、国や製薬会社に届け、23年の承認
につなげた。中皮腫治療推進基金の創設にも関わり、国に研究費の捻出を求め、石綿
健康被害救済法の改正も訴えた。
妹の江藤栄子さん(57)によると、昏睡状態になるまで「キャラバン隊を頼む」と繰
り返した。葬儀では「中皮腫を治せる病気にして」とメッセージを残した。
病と戦う患者に声をかける としたら、こう言っだろう。「今を乗り越えよう。今を
乗り越えたら、次を見いだせるしな」。いまもどこかで明る胸く笑っているような気
がする。(伊藤繭莉)