更新日 : 2020年8月21日

公開日:2019年1月1日

目次

中皮腫と傷病手当金

中皮腫をはじめとするアスベスト疾患を罹患された方の多くは、労災保険制度か救済制度のいずれかの請求・申請を検討されています。現役世代の中皮腫患者さんで、発症までの家計を自身の収入も含めて支えられていた方は健康保険制度における傷病手当金の申請を検討しても良いかもしれません。なお、傷病手当金を受給した場合で、のちに労災制度制度での休業補償を受給した場合は返還しなければなりません。

傷病手当金の支給対象者

傷病手当金の支給対象者は被用者保険の加入者です。

公的医療保険には、大別して「職域保険」と「地域保険」があります。職域保険の中には、「全国健康保険協会(協会けんぽ)」、「組合管掌健康保険(組合健保)」、「共済組合」、「船員保険」などが分類できます。一方、地域保険には「国民健康保険組合(国保組合)」、「後期高齢者医療制度」などが分類されます。傷病手当金の制度があるのは、前者の職域保険に分類される各制度のみですので、国民健康保険の加入者には傷病手当金は受給できません。

傷病手当金の支給条件

⑴発症した中皮腫やアスベスト疾患が業務外(仕事以外)の理由(原因)である。

⑵発症した中皮腫やアスベスト疾患の療養のために仕事につけない。

⑶発症した中皮腫やアスベスト疾患の療養のために仕事につけない日(労務不能)が3日以上連続している(年次有給休暇、所定休日などを含む)。

⑷給与の支払いを受けていない(給与の一部支払いで、傷病手当金の額より少ない場合は除く)。

傷病手当金の支給金額と支給期間

中皮腫やアスベスト疾患を発症して、前述した支給条件に該当する場合は、それらの疾病の療養のため仕事を休んだ日から連続した3日間のあと、4日目以降から仕事につけない場合に支給されます。支給の開始日から最長で1年6ヶ月まで支給されます。

この1年6ヶ月のあいだに、一時的に職場復帰をして給与の支払いを受けた場合、その期間は傷病手当金の支給はありませんし、支給期間の延長もされません。どのような場合であっても、支給開始から1年6ヶ月を経過して以降は傷病手当金の支払いはありません。

傷病手当金の申請(健康保険協会の場合)

申請にあたっては、傷病手当支給申請書(健康保険)の記入欄に記載し、事業主(会社)の証明および療養担当者(主治医)の意見を記入してもらい、健康保険の保険者に提出します。おおむね、申請から1ヶ月程度で支給となります。

退職と受給(資格喪失後の継続給付)

会社を退職したのちも、以下の2つの条件を満たしている場合は退職後も傷病手当金の受給ができます。

  • 被保険者の資格喪失をした日の前日(退職日)までに継続して1年以上の被保険者期間 (健康保険任意継続の被保険者期間を除きます)があること。
  • 資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること。(ただし、退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金は支払われません。)

【参考】

がんを学ぶ 傷病手当金とは

全国健康保険協会 病気やケガで会社を休んだとき

全国健康保険協会 傷病手当金について

中皮腫と雇用保険

会社を退職してから転職活動を行う場合、以前の会社で雇用保険に加入して一定要件に該当すれば基本手当(失業給付)を受給することが可能です。

基本手当(失業給付)の受給と要件

基本手当の受給には次のいずれの条件を満たしている必要があります。

①就職の積極的医師があり、常時、就職できる能力がありながら、就職につけない「失業」の状態にある。

②離職した日以前の2年間に被保険者期間が通算12カ月以上ある。ただし、特定受給資格者(倒産・解雇等による離職者)や特定理由離職者(期間の定めのある労働契約期間が満了し、労働契約の更新がないことによる離職者)については、離職する日以前1年間に被保険者期間が通算で6ヶ月以上ある場合でも可能。

基本手当(失業給付)の金額と支給日数

基本手当は、原則として離職直前6ヶ月間に支払われた賃金(賞与は除きます)の合計額を180で除して算出した金額の45〜80パーセントが支払われます。ただし、基本手当日額の上限額が定められていることにご留意ください。原則として離職日の翌日から1年間が受給可能期間です。

給付される失業手当の日数は会社都合の場合は90日〜330日、自己都合の場合は90日〜150日となります。

基本手当(失業給付)の受給期間の延長(スライド)措置

基本手当の受給期間は原則、離職日の翌日から1年以内です。ただ、中皮腫を含むアスベスト疾患に罹患したなど、病気やけが、妊娠・出産、親族の介護等で働くことができないなど、受給期間内に30日以上働くことができない場合等は、働けなくなった日数だけ受給期間を最大で3年間まで延長できます(受給期間の合計は最大4年)。

【参考】

厚生労働省 平成29年4月1日から、雇用保険の基本手当について 受給期間延長の申請期限を変更します

東京都 【雇用保険:基本手当の詳細】(平成30年3月1日時点)

厚生労働省 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準

中皮腫と生活保護

・生活が困窮している方に対して最低限の生活を保障し、自立を支援をする制度

労災等で給付を受けた際の返還の必要性

生活保護を受給されている方の中には、労災の給付がされることで生活保護費の支給がされずに、生活の継続性に不安をもたれる方もおられます。また、労災認定された場合に、発症日まで遡って休業補償給付等がされる場合もありますので、生活保護費の支給と重なり合っている期間について返還しなければならないのではないかと思われている方もおられます。生活保護法の第63条には次のように書かれています。

被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

出典:電子政府の総合窓口 e-Gov 生活保護法

生活保護法において返還を求められるのは、「資力」があったのに保護を受給した場合です。そうすると、労災請求していない場合や労災請求中で支給が決まっていない段階では「資力がある」とは言えませんので、仮に労災給付の支給が決まって給付の期間が結果的に重なる時期があったとしても、生活保護費の返還の必要は無いと考えられます。最終的には、支給を受けてきた自治体の判断になりますが、参考になさってください。

また、中皮腫等のアスベスト疾患の治療に関する医療費は労災での保険給付の扱いになりますが、それとは関係ない歯科治療や透析治療などは労災の扱いとなりませんのでご注意ください。

【参考】厚生労働省ホームページ生活保護制度